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北朝鮮による日本人拉致問題の解決策 ブログトップ
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10・ようやく顔を出し始めた歴史の真実 日本向け2部(10/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

10・ようやく顔を出し始めた歴史の真実
 私は、日韓あるいは日朝間の問題の大部分の源泉は、南北朝鮮民族が歴史の真実を直視せず、大掛かりな隠蔽と捏造を行ってきたことにあると考えている。そういう意味で、最終的に統一された韓国において、少なくとも台湾の歴史教育のように、過去日本が朝鮮に対して行った支配行為を科学的な史実に基づいてプラス面とマイナス面に分け、客観的に併記したうえで次世代に伝えるという作業が行われない限り、両国間の真の友好など永遠にありえないと確信している。問題は彼らがそこまで成熟しているか否かである。
 私の考えでは、このような韓国側の嘘が半世紀にもわたり非難を免れていたのは、第一に戦前・戦中を全否定する戦後日本の風潮や歴史観と見事に凹凸が噛みあったからであり、第二に中国と朝鮮に対する過去の行為をはっきりと区別できなかったからである。人間は誰しも「時代的制約」を免れないわけであり、そういう意味で一般国民だけでなく政治家や官僚までもが韓国側の嘘と誇張に騙され続けたのは仕方がない面もある。
 われわれは過去の問題に言及する際に、常に「中国と韓国」と風に同列に並べる癖を無意識のうちに身につけてしまったが、これが大きな間違いなのである。非常に単純に言ってしまえば、日本の左派は両者に贖罪しなければならないと主張し、右派は贖罪は必要ないか最小限でよいと主張する。だが、私は自分なりに史実を精査した結果、両者をはっきりと区別しなければならないと考える。つまり、中国に対しては贖罪が必要であるが、南北朝鮮に対しては不必要か、あるいはごく部分的にしか必要ないという見方である。
 このような見解は今日でも非常に小数派だが、山田案の背景となっているのはあくまでこの種の科学的な歴史観である。だから、私は中国に対する賠償を主張し、北朝鮮に対する経済援助(日朝平壌宣言からすると“実質賠償”)の正当性を疑っている。そして日朝国交正常化を、かつての日中国交正常化と同列視しないように訴える。北朝鮮は中国と違い、ありとあらゆる犯罪を重ねるただのテロ国家であり、ゴロツキでしかない。
 日朝平壌宣言には、「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」という欺瞞的な文言がある。もしこれを「過去の侵略戦争によって、中国の…」と置き換えればそのまま「真実」として通るだろう。中国に対しては、だ。
 日中戦争は、基本的に日中両国の帝国間戦争であり、また日本軍と国民党軍を相打ちさせるための共産党の謀略が常に存在していたわけだが、一方でその挑発にまんまと乗せられ、結果として日本が中国に対する侵略と破壊の罪過を犯してしまったのも史実である。非常に紛らわしいことだが、言葉の上では「朝鮮人の強制連行」と「中国人の強制連行」は同類に見えてしまうが、その実態はまったく異なるものである。ここに今日でも大きな混乱が生じている理由がある。
 一方で、韓国併合と35年間の統治は、中国への侵略とはまったく別次元のものである。それを「史上最悪の植民地支配」などと呼び、自らをナチスドイツのホロコーストの犠牲になったユダヤ人に並べ立てるのは韓国人の異常な自己欺瞞と嘲笑うしかないが、このような彼らの詐欺的言動と歴史の捏造がかくもまかり通ってしまったのは、われわれがこれまで科学的な史実に基づいて中国と朝鮮をはっきり区別するという思考作業に自覚的でなったことにも大きな原因がある。その結果として、韓国人は、日本の侵略戦争と虐殺行為の犠牲となった中国人民と同類に収まることにまんまと成功し続けたのだ。
 だが、この数年ほどでそのトリックのメッキが急速に禿げてきた。まずインターネットによる情報化で大量の一次史料に手軽にアクセスできるようになり、日韓市民の間で従来の韓国史に対する研究や検証が活発に行われるようになった。その「集合知」の結果として、韓国の歴史教育は古代史から中世・近世・現代史まで事実に反する記述が多すぎること、それらが科学的史実ではなく政治的な都合で捏造されたこと、また韓国人がその自己洗脳と自己憐憫の結果として自分たちに都合のいい嘘の歴史を日本側に強要していることなどが盛んに指摘されるようになった。逆にいえば、従来の戦後の日本人の歴史観が、韓国人による韓国人の自慰のための歴史観にあまりに影響されていたということであり、過剰な善意と反省に満ちたそれまでの対半島姿勢に疑問が投げかけられるようになった。
 このような動きと平行して、学界レベルでも2002年に「韓日歴史共同研究委員会」が発足し、3年間の非公開討論を行った。両国の学者は各時代ごとに分かれて討論を行ったが、案の定と言うべきか、韓国側の主張する「公式の歴史」と日本側の主張する史料に基づいた主張とは平行線をたどり、最後には無理に歴史観を共有する必要はなく、両論併記の報告書で終了した。ちなみに、両者の討論の際に日本側が史料に基づいて韓国側の主張を否定してみせたら、相手は「韓国に対する愛情はないのか?」と怒ったそうである。このような事例を見ると、「ドイツとフランスのように日韓も同じ歴史認識を共有すべきだ」などという、己の良心に酔ったような主張がいかに愚劣であるかがよく分かる。
 またこの間、こういった歴史認識問題とは別個に、否、根は同じであるが、日韓は日本海呼称問題と竹島領有問題で揺れた。これらをめぐっては、さすがに外務官僚も韓国側のトンデモない嘘つき体質に気づいたらしい。この両問題に関して詳細を書くことは本稿の趣旨に反するが、一つ指摘するなら韓国側の主張は何から何までデタラメであり、目的を達成するためなら手段を選ばない、つまり民族エゴを満たすためなら他者に冤罪を着せることも厭わない驚くべきメンタリティを見せ付けるものであった。
 また、同じ頃、ノ・ムヒョンという一国の大統領が外交儀礼も省みずに事あるごとに“歴史問題”なるものを持ち出してわが国を誹謗中傷し続けたことも、一般の日本人が韓国のアブノーマルさに気づく上で大きな役割を果たした。政治家の中にもようやく「日韓友好が日本人のひとり相撲ではないか」とか、「この韓国という国は変ではないのか」と気づく者が現れたようだが、フラストレーションの溜まった国民サイドとしては、「反論すべきは反論する」という本来の仕事を怠ってきた政治家や官僚にも非難の目を向けざるをえない。
 以上のような経緯から、ここ数年の間に、ことコリアに関しては南北とも官民グルで嘘をつく“国家的嘘つき”という評価が定着してきた。それまでは、このような卑劣さがわれわれの理解を超えているのと、社会的生命に関わるために差別や偏見の持ち主という評価を恐れるのとで、相手のやり口や人格に対する非難が自制されてきた。だが、意図的に嘘をついて騙そうというやり方に対してとうとう忍耐も潰え、今では国民レベルで非難が噴出している。例の従軍慰安婦問題でも、国内の新聞は朝日一社を除いて韓国人に対する批判で一致していた。彼らが嘘の歴史に基づいて日本と日本人を憎悪し、次々と冤罪を発明するに留まらず、それを世界中に喧伝して陥れようとする卑劣さに対して、今や多くの日本人が強い危機感と反発を抱いている。ここ数年、嫌韓の日本人が徐々に増え続け、ついに過半数を超えたという事実も、テレビを中心としてこれほどまでに「韓流」が煽られた現実を考慮するなら、まことに驚くべき変化と言わざるをえない。
 だが、ギクシャクするそんな日韓両国にとって、また誰よりも韓国人自身にとっての救いがある。それは他ならぬ韓国内部から「嘘の見直し」が始まったことである。「日本の支配は朝鮮民族にとってそれまでの歴史上もっとも幸せな時期であり、それ以前は地獄だった」という趣旨の『親日派のための弁明』を記したキム・ワンソプ氏は、言論弾圧を受け、逮捕された。だが、いったんタブーが破られると、彼の後に続く者が絶えなくなった。
 ソウル大教授の李栄薫(イ・ヨンフン)は「日本による収奪論は作られた神話」と主張した。具体的には、歴史教科書の記述にもある「日本が大韓帝国を強制的に併合した」ことや、「植民地時代に韓国の土地の40%以上を収奪し、膨大な米を略奪していった」ことは誇張であり、また「従軍慰安婦は売春業」とまで言い切った。また、日韓会談当時、韓国側は「強制徴用と徴兵被害者は103万人」という数字を持ち出したが、これは実は適当にでっち上げた数字だったと、会談に参加した当時ソウル大学某教授も告白した。
 車明洙(チャ・ミョンス)嶺南大経済学教授は1912~1937年までの朝鮮国内のGDPを当時の一次史料などから割り出し、「1920~30年代の平均成長率は4・1%」と発表して、実は日帝時代に高度成長がなされ、韓国の近代化を主導したという「植民地近代化論」を実証的に裏付けてみせた。チャ教授によると、朝鮮経済はこの間、第1次産業の割合が低下し、第2次・3次産業が増加したとのことで、農業国家から近代的な産業が芽生えたことも明らかになった。ちなみに、この年平均4%という成長率であるが、同時代の日米欧州よりも高いとのことである。
 軍事評論家の池萬元(ジ・マンウォン)は「自ら慰安婦だったと話す女性の真偽を立証付けられない」として、元従軍慰安婦のなかに「本物」でない人がいるかもしれないとまで言い切った。
 以上は戦後世代であるが、日帝時代を直接経験した世代も黙ってはいない。
 高麗大名誉教授の韓昇助(ハン・スンジョ)は、「日本の植民地支配はむしろ幸運、祝福すべきことであり、韓国の民族文化も日本の植民統治期間を通じてもっと成長した。韓国人は日本人に感謝しなければならないこと」と主張した。
 元仁荷大学教授の朴贊雄も、「朝鮮は日本の植民地になったお陰で生活水準がみるみる向上」し、「日本による植民地化は朝鮮人の日常の生活になんら束縛や脅威を与えなかった」と主張した。彼は、当時の朝鮮人は日本人に対する敵愾心もなく、「独立運動をする親もなければ、子に独立運動をそそのかす親」もおらず、今日の経済収奪・独立闘争史観は嘘であると言い切っている。
 このように「日帝は悪逆非道」という主張の化けの皮が徐々に剥がれつつある。とくに1980年代から芽生えた植民地近代化論は、同論者が次々と証拠やデータを添えて発表し、またマスコミもそれを報道するようになったため、韓国で徐々に定説となりつつある。もっとも、従来の収奪論がどんどん分が悪くなっていっているにもかかわらず、韓国政府は相変わらず「国史編纂委員会」という国家機関による歴史の歪曲と捏造を止めない。また、多くの韓国人も今なお「われわれは日帝という悪魔と果敢に戦った」という民族的な自尊心にとって心地のよい物語を捨てたがらない。それでもインターネットの発達により、もはや歴史の真実が隠蔽しきれなくなっている。現在、歴史の真実を記すサイトは「親日サイト」などと指弾され、韓国で取締りの標的になっているが、このような言論や思想の自由を迫害するやり方は、いつまでも長続きはしないはずだ。
 さて、以上のように、韓国で「歴史の正常化」が進行しているにもかかわらず、このような現実に脳が付いていくことができず、肯定的な変化に水を差す日本人がいる。
 それが端的に表れているのが、例の日朝平壌宣言である。
「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」
 このように日本側が安易に“反省”や“謝罪”をしてみせるから、せっかく洗脳が解けつつある韓国人に、虚構の再確認をさせてしまっている。ある韓国人は、「国史に書いてあることはほとんどデタラメではないかと思い始めたけど、日本の政治家が反省しているのを見てやっぱり正しいと確信した」と言った。このように、日本人の過剰な善意や相手に対する気遣いは、逆効果になっている。それは悪意なき者の自己洗脳を強化するだけでなく、一部の悪意ある者をさらに増長させ、ますます悪へと追いやり、日本側の被害を拡大する結果にもなっている。南北朝鮮人の中には、政治的な目的のために意図的に嘘をついて日本を陥れている者もいることを忘れてはならない。彼らはまったく独特の方法で日本を攻撃し続けているのである。変な善意は仇となって返ってくるのが、これまでの教訓だ。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

11・無知と自己陶酔からくる“国交樹立の信念” 日本向け2部(11/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

11・無知と自己陶酔からくる“国交樹立の信念”
 結局、「不幸な過去を清算し、北朝鮮との国交正常化をなんとしてもやり遂げねばならない」という一部の政治家や官僚の一途な思い込みは、どこから沸いてくるのだろうか。
 大きな原因は、散々述べたように、歴史認識の稚拙さである。中国と韓国をさも同じ被害者であるかのように同列に位置づけたり、また自らの恥辱を隠蔽するために韓国が発明した嘘の歴史にコロリと騙されたりするのは、科学的な史実を知らないか、あるいは知っていても中途半端なためである。
 そのような無知から、日朝間に“不幸な過去”なるものが存在し、あたかも日本はその“贖罪”のためにも国交正常化をしなければならないという類いの“信念”が生まれるらしい。だが、真実には、北朝鮮の人々にとっての不幸とは、共産主義者に支配されてから今日に至る過程であり、また日本帝国に統治される以前の李朝の暗黒時代である。そして朝鮮民族に「多大の損害と苦痛を与えた」張本人こそ金親子である。おそらく、まだ自由で民主的な社会を知らない北朝鮮の人々にとって、日帝時代とは全時代を通じてもっとも幸福だった時代だったのではないだろうか。
 本来、政治家や官僚が自分が関係する歴史的事例に関して無知であるのは立派な罪ではないだろうか。この種の無知は職務怠慢として指弾されるべきである。
 われわれがまずやるべきことは、朝鮮民族がなぜ歴史の真実を隠蔽してきたのか、その真の動機を理解することである。それは端的にいって真実があまりに恥辱だからだ。
 もし本当に歴史教科書に真実を記すなら、以下のような記述にならざるをえないのだ。
「李氏朝鮮は“文化先進国”どころか中世の暗黒時代さながらの地獄のような未開国家だった。当時は貨幣経済すら未発達で国民の4割は売買される奴婢だった。朝鮮は清の属国であり、国王自らが清の役人に土下座していた。日清戦争と下関条約の結果として日本に独立させてもらった。だが、当の朝鮮人が独立の気概も近代化の意志も持ち合わせていなかったため国土を西洋列強に切り売りし、それが日露戦争の大きな要因になった。朝鮮人は日露戦争の勝利を見て、日本が新たな宗主国にふさわしいと考えた。西洋列強によって世界が次々と植民地化されるのを見て、生き残りのために自ら日本に併合を願い出た。その日韓併合は国際社会からも合法と認められた。併合の際も大半の朝鮮人は無関心で、抗議運動などはまったくなかった。李朝時代の対外債務は日本が全部肩代わりしてくれた。日本の国家的事業によって朝鮮は急速に近代化した。朝鮮人はそれを喜び、総督府の事業に協力的だった。日本人の名前を名乗る者が続出して総督府から紛らわしいとして咎められたが、最終的に合法化してもらった。日中戦争が始まると、朝鮮人将校の活躍に国中が沸いた。当時、独立運動なんて聞いたこともなかった。太平洋戦争が始まると、朝鮮人は進んで戦争に協力し、東南アジアの捕虜収容所では連合軍捕虜を虐待し、志願兵募集に殺到した。日本が敗戦すると、アメリカの意志によって朝鮮は独立させられた。連合国が『朝鮮は日本の奴隷だった』と主張するので、とりあえず残酷な扱いを受けていた被害者に成りすました。そして独立闘争を頑張っていたことにし、連合軍の一員として対日宣戦布告していたことにし、戦勝国に成りすますことにした」
 これが朝鮮の近現代史である。彼ら朝鮮民族にとって歴史の真実はあまりに耐え難いものだったのだ。果たして、真実とはいえこんな内容が教科書に書けるだろうか。
 しかもその後の歴史も、戦前に劣らぬほど恥ずかしいものである。北朝鮮であれ韓国あれ、「戦後、わが国を掌握した独裁政権は日帝時代よりもはるかに強圧的で、無法で、大量虐殺をやらかした」とは、とうてい書けないはずである。このような歴史は、独裁政権にとって政治的に都合が悪いだけでなく、一般国民にとっても都合が悪いのである。神話が長らく信じ続けられている背景には、両者のニーズの一致があるからだ。それゆえ、真実を主張する韓国の学者や知識人は今なお社会からの迫害すら覚悟せねばならないのだ。
 そしてこのような歴史の真実と韓国側の本当の内情を知れば、われわれの側もまた従来の幻想を払拭することができるのである。
 現代の民主的な情報化社会にあって、真実を永遠に封印しておくことなど不可能である。今言ったように、韓国でもようやく「嘘の見直し」と「歴史の正常化」が始まった。これまで大半の韓国人は、官民とも民族主義的な自慰に浸り、日本という他者にすべての責任を被せるという安易な道を選んできた。しかし、そのように嘘をつき続けることにはもはや耐えられないと感じる人々がようやく現れ始めたのだ。たとえそれが恥辱であっても、歴史の事実は事実として苦くても直視すべきだと考える人が増え始めた。
 このような肯定的な変化に水を差そうとしているのが、くり返すが、中途半端な歴史認識から「信念」なるものを抱くに至ったらしい一部の日本の政治家なのである。
 彼らは「不幸な過去を清算し、日朝の国交を樹立するのが政治家としての使命である」という風に信じきっている。だが、このような「信念」は、換言すれば何ら客観的事実の裏づけのない当人の勝手な思い込みにすぎない。
 そもそも何のための国交正常化なのか。「なぜ山に登るのか」と問われた登山家は「そこに山があるからだ」と答える。同じように、そこに国交のない国があれば国交を樹立しなければならないのと条件反射的に考えるのが政治家であり、外交官であるらしい。
 だが、相手が誰彼かまわずに国交を樹立することが、そんなにご大層な“偉業”だろうか。ましてや北朝鮮という国は人類の近代史上でも稀なアブノーマル国家である。私ならばこんな異常な国とは国交を結ぶ必要もなければ関わる必要すらもないと考えるが、どうやら政治家や外交官の職業本能はそのような疑念すらも一切思い浮かばないほど自動的・機械的で、逆にそれを「歴史的使命」に脳内変換してしまうほど強烈なものらしい。そして両国の間に対立や障害があればあるほど、その使命感とやらも燃え盛り、「政治家(外交官)冥利に尽きる」という心理が拡大されるものらしい。
 問題なのは、自分が何かの歴史的・国家的役割を果たしているという思い込みには、必ずといっていいほど本人の気づかぬ自己陶酔が入り混じっていることである。これが実に厄介な心理と言わざるをえない。なぜなら、世論の批判を浴びれば浴びるほど、彼はそれを「無理解な大衆による迫害」と受け止め、一種の陶酔感を伴った殉国者的心理に浸るからである。ゆえに、北朝鮮と国交正常化することを何かの「歴史的偉業」と錯覚している人たちには、どんな論理的な批判を浴びせても無駄といえよう。当人はあくまで「自分は正しいことをしているにもかかわらず、いや正しいことをしているがゆえに、世間の非難を浴びているのだ」という“ガリレオ・シンドローム”に陥るからである。
 一部の日本の政治家は、過去何十年にもわたり「日朝国交正常化」を謳い続けてきた。そして歴史の真実の是非は横に置き、独裁国家の言うがままの歴史観を受け入れ、北朝鮮に対する「過去の清算」とか「過去の贖罪」などという言葉を弄んできた。
 外務官僚もまたしかりである。彼らは、世の中に国交がない国があれば国交を樹立し、関係を築くのが自分たち外務省としての使命であり、成果だと信じ込んでいた。その「はじめに国交正常化ありき」の方針の前では、拉致被害者とその家族の存在は障害ですらあり、邪険に扱いすらしていた。
 このような人たちは、両国の体制の違いや障害を乗り越えて北朝鮮と国交を樹立するのが己の歴史的使命であると任じ、その使命に尽力する己に陶酔してきた。今では物笑いのタネでしかない「金丸訪朝団」のときの金丸信は、「国交正常化すれば歴史に名が残る」と信じていたという。02年の日朝首脳会談に臨んだ小泉元首相も外務省幹部も、そのような考えに支配されていたらしい。いや、今でもそんな錯覚に犯されている政治家はいる。
 いいかげん、誰かがはっきりと言ってやるべきではないだろうか。「王様は裸だ」(=あなた方はただの馬鹿なんだよ)と。“信念”とか“使命感”などというものは、裏を返せば客観的真理とはかけ離れた本人の単なる思い込みである。実に厄介なメンタリティと言わざるをえない。そんなものに振り回される国民一般こそいい迷惑である。
 そもそも客観的な検証抜きに相手の言い分をそのまま受け入れ、謝罪するのが政治家の仕事ではない。それで相手の人民感情が慰撫でき、両国の友情に繋がると考えるのは、その結果としてますます反日を増長させ、強請りを強めた中韓両国の事例によって単なる錯覚、否、逆効果であることすら実証されている。
 日本側に問題があるとすれば、それは南北朝鮮人に対する「過剰な善意」である。そのせいで、日本は常に彼らによる詐欺外交の餌食になってきた。「不幸な過去を清算し、日朝の国交正常化を果たす」という考えも、明らかにその過去の愚かな過ちを踏襲するものである。わが国が南北朝鮮に対してやるべきなのは「反省」ではなく「反論」である。日本海呼称問題のように、不当な言いがかりや冤罪を着せようという卑劣な試みに対しては、声を大にした徹底した反論・論破あるのみである。そして韓国に対してだけでなく、北朝鮮に対しても「国交正常化」ではなく「歴史の正常化」を進めるべきである。
 幸い、韓国社会は肯定的な変化を見せ始めている。日朝交渉もまたこのような変化を見据えた上で進めるべきではないだろうか。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)


12・奴隷の物言いをしている交渉――日朝平壌宣言の過ち 日本向け2部(12/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

12・奴隷の物言いをしている交渉――日朝平壌宣言の過ち
 以上のように考えると、02年に締結された「日朝平壌宣言」は極めて異様な代物と言わざるをえないではないか。
 相手は麻薬・偽札の製造と密輸を行うテロ国家であり、戦争と飢餓を引き起こした独裁者とその一族であり、そして何よりも日本人の市民を拉致した犯罪者である。
 わざわざ被害者の側からそのゴロツキの加害者のところへ出向いて行って、「国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注する」と約束し、要約すると「日本はお詫びしましょう、過去の清算として経済協力をしましょう」と謳いあげたのである。
 具体的には、「過去の植民地支配によって朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実」なるものを謙虚に受け止め、「痛切な反省と心からのお詫びの気持ち」なるものを表明し、おまけに「無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力」と「民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等」を約束してみせたのだ。
 これは悪事を行い続けている独裁政権に対して被害者の側が褒美を与えるという、とんでもない文面であり、外交交渉以前の問題ではないだろうか。
 はっきり言えば奴隷の物言いであり、怪文書の類いである。だが、日本政府は今もって「この宣言に従って」行動している。あくまでこの宣言の枠内で拉致問題も解決しようとしている。ゆえに「誘拐したわれわれの同胞を返してくれれば、国交正常化して莫大な援助をしようではないか」という類いの日朝交渉をしている。
 これが、仮に「相手を騙すための方便」であるならば、つまり空手形としてやっているならば、それはそれで拉致された人々を取り戻すための一つの戦術であると見なせないでもないが、どうやら本気で言っているらしいのだから神経を疑う。これはすでにテロに屈しているも同然である。こういうのを人間社会の常識では「奴隷」という。ちなみにこの枠組みを考案した田中均氏は「日朝合同の調査委員会を作って拉致被害者を調査すべき」と主張している。こういう提案を加害側にする被害者というのは、もう病人である。
 たしかに日朝平壌宣言では、終戦日以前の出来事に関しては両国およびその国民の請求権の相互放棄を謳っており、そういう意味でサンフランシスコ平和条約に則っており、過去に対する責任と賠償それ自体をうまく回避している。
 だが、「多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実」を認め、「痛切な反省と心からのお詫びの気持ち」を表明しているため、日本国が朝鮮に対する罪人であることを国家として公式に認めてしまっているのだ。
 よって、前後の文脈からすると、「日本は悪いことをした罪人ですが、賠償金は支払いたくないので、経済協力で勘弁してくださいね」という趣意になってしまう。
 このように体裁は二国間協力的な経済援助であるが、文脈上は実質賠償になっている。
 実際、宣言文から受ける日本の印象は極めて悪い。「日本は自らの過去の罪を自覚しているにもかかわらず、北朝鮮が貧しいことにつけ込み、経済援助の申し出と引き換えに過去の植民地支配の犯罪については請求しないよう、被害者をうまく誘導している」と映る。
 明らかにずる賢く、卑怯で、かつ卑屈な印象だ。国家人格を貶める内容である。
 いや、問題は、事実、南北朝鮮人がこのように受け止め、「日本が公式に責任を認めた」と主張することである。彼らの民族的性格とこれまでの前例からすると、このことを根拠として、わが国に対して永遠に強請り・タカリを行い、あまつさえそれが成功しなくても道徳的に優越な立場に立ち続けてやろうという邪心を抱くことは必至である。
 このような宣言書を日本国家の公式文章として残すことは重大な禍根を残すだろう。しかも、自国民を拉致した犯罪テロ国家のところにわざわざこちらから出向いていって「宣言」したのである。対等に接する価値のない卑劣な敵に対して、日本国にへりくだった物言いをさせた当時の政治家と外務官僚の罪は重いと言わざるをえない。
 奴隷の物言いといえば、二言目には日本サイドから飛び出す「不幸な過去の清算」という言葉もそうである。くり返すが、元はといえばこの種の罪悪感も、朝鮮民族が官民グルで行ってきた「被害者自称詐欺」にまんまと騙された結果としてわれわれの間に芽生えた虚構の認識に他ならず、歴史の真実にはまったくそぐわないものである。
 しかも問題は、われわれがそのような言葉を口にするたびに、相手の反論に正当性を与えてしまっている、つまり返す刀を与えてしまっているという点である。
 北朝鮮は、日本側の拉致問題の提起に対して、「わが民族に対して過酷な植民地支配を行った日本がその過去の罪も顧みずに何を言うか」と一貫して反論してきたし、とくに国際社会に対してそれが有効打になると信じていることはそれまでの言動・行動からも明らかである。よって、われわれが「不幸な過去の清算」と口にすることは、その相手の主張にわざわざ論拠をくれてやる行為であり、まさに北朝鮮の思う壺ではないだろうか。
 参院選敗退後、安倍前総理は「日朝の不幸な過去を清算をし、国交正常化を図る」と口にしたが、その直後、宋日昊大使は「初めて言及した」として“評価”した。しかし換言するなら、それはわが国が相手の思惑に沿ったから“評価”されているだけの話である。
 このような交渉をわれわれは一種の駆け引きと思い込んでおり、事実、表面的には駆け引きに違いない。だが、「日朝平壌宣言」は最初からわが国に不当な犠牲を強いる内容であり、道理も筋もないものである。よってこの宣言の枠内にこだわって日朝交渉を続けている限り、わが国の国益に反する構造自体は変わらないし、最終的に悪の加害者を丸儲けさせることには変わりないのである。このように日朝交渉は最初からボタンを掛け違えており、わが国は今もその誤りを一貫して踏襲し続けているというのが私の見方である。
 正直な話、私としては、北朝鮮がミサイル発射のモラトリアムに違反したことに感謝したいくらいである。これでわれわれは相手の違反を理由に「日朝平壌宣言」を堂々と破り捨てることができるからである。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

13・国交正常化構想の三つの誤り 日本向け2部(13/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

13・国交正常化構想の三つの誤り
 いずれにせよ以上のような理由で、「日朝の不幸な過去を清算をし、国交正常化を図る」という従来の対北政策には、その原点から重大な錯誤が存在していると私は考える。
 要は「道理がない」ということであり、これが日朝国交正常化に反対する第一の理由である。この「道理があるかないか」は重要だ。なぜなら、ここで後世の審判が別れるからである。あらゆる政治的決断は後世の審判を仰ぐ運命にあり、それは対北政策とて例外ではない。北朝鮮への「過去の清算」なる行為には道理がなく、また誘拐犯が人質をかえせば莫大な援助がもらえるというのも筋の通らない話である。わが国の大物政治家の中には未だに「北朝鮮と国交を回復すれば歴史に名が残る」と考えている度し難い人がいるが、道理のないことをすれば歴史に裁かれ、残るのは悪名だけである。
 第二の反対理由は、「この国は近い将来に崩壊するから国交を樹立するだけ無駄だ」というものである。上記が過去に対する認識に拠るとすれば、これは未来のそれに拠るものだ。
 原因として二つが考えられる。
 ひとつは後継者問題という内部要因である。次男の金正哲(ジョンチョル)が有力視されているが、一方で長男の金正男もすでに党内の実力者であり、経験と実績では後者のほうが上である。また「非世襲」のケースも考えられている。それが軍の実力者による集団指導体制なのか、あるいは三代目による権力の掌握が完成するまでの「繋ぎ」「摂政」なのかは分からない。
 実は、このように見解が別れること自体が危うい証拠なのである。専制国家では権力は専制者一人に集中する。その継承が曖昧である場合、民主国家にいるわれわれの想像が及びもつかないほど指導層に動揺をきたすのである。具体的には、派閥抗争や殺し合いという形となって表面化する。これは専制国家の宿命である。
 仮に後継者が正哲に決まり、正男が自分の地位や生命に何らかの危険を感じた場合、どうなるだろうか。また、正哲のほうが三代目としての地位や権力を正男から脅かされていると感じた場合、どうなるだろうか。あるいは、両者の立場が逆でも構わない。
 こういった、ちょっとした疑心暗鬼で周囲を巻き込んだ殺し合いに発展するのが専制国家なのである。それぞれの下には大勢の部下が付いており、彼らにしても同じように自らの出世と生命に関わる大事なのである。当然、命がけの権力闘争になる。己の身に危険を感じたほうは外国に国さえも売る。なぜなら、専制国家とはそういうものだからだ。
 以上のような予測は、従来言われていた「経済破綻→崩壊」論とは一線を画すものであり、それは従因に過ぎず、主因はあくまで専制者の老いと後継者問題によって専制国家特有の弱点をさらけ出すことにあるとの考えに基づいている。
 もうひとつの原因は外部的なものである。
 北朝鮮が近未来に崩壊すると確信するに足る有力な根拠は、大きくは従来の経験や常識がまったく通用しない人類社会全体の巨大な変化の進行である。この流れを国家権力で堰き止めることができると考えるのはまったくの幻想にすぎない。すでに外界に対してわずかに扉を開けてしまった北朝鮮にもその流れが怒涛のごとく押し寄せている。現在、それが中国や韓国からの経済投資という形で現れ、今後は欧米・ロシアからも相次ぐが、いったんモノと金が北朝鮮国内に流れ込み始めれば、すぐに人と情報も大量に押し寄せることになるだろう。いや、現にそうなりつつあるのだ。
 このような変化は世界的規模で生じているものであり、北朝鮮だけ例外で居続けることは不可能である。一般的には経済のグローバル化や世界市場の創出などと言われているが、名称は何であれ終着点が世界の政治的・経済的な一体化であり、統一であることには変わりない。その変化のスピードが今や「爆発曲線」と呼ばれる急カーブを描きつつある。
 これらの原動力となっているのが資本主義が本質的にもつ本能である。資本主義にとってはいかなる国境も国家の固有性も邪魔者であるらしく、まるでブルドーザーで地面をならすように猛烈な勢いで世界を平坦化し、人・モノ・金・情報が完全に自由に行き交う世界の誕生に向けた不可逆の潮流を生み出している。この流れからすると、北朝鮮のように世界でもっと異質な国家ほど、もっとも大きな抵抗を受けるはずである。よって、いかなる個人であれ国家であれ抗うことができないこの世界的規模の潮流は、近い将来、その存在自体を許さないがごとく現北朝鮮の国家体制を押し流してしまうだろう。
 以上の二つの理由により、北朝鮮の崩壊は予定調和であり、単に時間の問題と私は考える。よって、もはや北朝鮮との国交正常化は意味のないことである。
 おそらく、崩壊と同時にそれまで隠蔽されてきたありとあらゆる闇が暴かれることになるだろう。政治犯収容所などはかつてのナチのそれと対比されるに違いない。悪逆非道な独裁国家に手を貸した者は、歴史の法廷に立たされる。したがって、「不幸な過去を清算し、日朝の国交正常化を果たす」という“信念”に燃えた一部の政治家や官僚は、たとえ彼らの信じる歴史的使命とやらを成し遂げても、結果として二階に上がって梯子を外されるような格好になるだろう。まことに気の毒なことに歴史書には「勘違いの愚か者がいた」と冷笑をもって記録されるので、たしかに彼らが「歴史に名を残す」のは間違いない。
 日朝国交正常化に反対する第三の理由は、仮に拉致問題の全容が明らかになれば国民が激昂するので、現実に国交の樹立はありえないというものである。むろん、与党が政権の座から滑り落ちることを覚悟するのであれば、話は別だが。
 北朝鮮に今も囚われている日本人は、実際には政府認定の残る12名だけで済むはずがない。真実には百名以上であり、しかも生存率は極めて厳しいものかもしれない。TBSの「報道特集」によると、なんと政治犯として強制労働させられている日本人も目撃されているという。よって真相が究明された時、国民は「9・17」以上に激昂する。その世論の反応を考えれば、北朝鮮との国交樹立や経済援助など言語道断だろう。
 仮にそれがありうるとすれば、金正日政権がクーデターによって倒壊し、新政権が反金王朝・親日政策を掲げた時のみである。日朝の国交樹立とその後の経済援助策が叶うことがあるとすれば、これが唯一の可能性である。
 以上の三つの理由により、「日朝は一刻も早く国交を樹立して関係を正常化すべきだ」などという考えを私は否定する。このような発想は、過去も知らなけば未来に対する想像力もないために生じたものである。わが国は北朝鮮に対していかなる負債も背負っていない。過去を清算する義務もなければ、国交を樹立しなければならない理由もない。経済援助するにしても、少なくとも相手が親日的な新政権にならない限り、正当性がない。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

14・北朝鮮は二度騙せ 日本向け2部(14/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

14・北朝鮮は二度騙せ
 よって、現在、日本政府は公式また水面下を問わず、北朝鮮に対して「過去の清算」を誘い水にし、「拉致問題を解決すれば国交正常化して莫大な経済援助をしようではないか」という対北交渉を行っているが、もし本気でそうするつもりならば、まったくどうかしている。これはあくまで「相手を騙すための空手形」と割り切るべきである。
 つまり、「騙すための手段・方便」として「日朝平壌宣言に従って不幸な過去を清算し…」と言い続け、「植民地支配に対する莫大な補償」を相手の眼前にニンジンとしてぶら下げるのだ。そして仮にこの方法によって残る拉致被害者の生存者すべてを帰国させることができれば(この可能性は非現実的だが)、その後に追加要求を突きつけるのである。
 政府が拉致問題の解決として定義するのは、「すべての拉致被害者の安全確保と帰国」であり、また同問題に対する「真相究明」と「拉致実行犯の引渡し」である。よって、「犯人引渡しと真相究明も“解決”に含まれる」と履行を迫り、拉致問題解決のハードルをさらに引き上げるのだ。
 この場合、大勢の拉致被害者が帰国した時点でかなりの真相は明らかになるので、焦点は「犯人の引渡し」であろう。だが、犯人は金正日なので、北朝鮮がこのような要求を呑むことは不可能だ。よって国交正常化交渉はまたしても決裂する。北朝鮮は「また日本に騙された」とヒスを起こすだろう。これでよいのだ。どうせ真相が明らかになれば国民は激怒し、国交樹立に反対する。その世論をバックに、日朝平壌宣言など丸ごとゴミ箱に入れてしまえばよい。拉致被害者の生存者さえ帰還すれば、あとは野となれ山となれである。
 むろん、責任はすべて北朝鮮に押し付けねばならない。北朝鮮はミサイル発射のモラトリアムの約束に違反した。よってこれを理由にして日朝平壌宣言を公式に破棄することができる。どだい、こんな道理なき公式文書を残せば歴史の汚点・国家への背信になる。
 そもそも、5人の拉致被害者を帰国させることができたのも、意図せずに相手を謀った結果である。02年の日朝会談時、金正日は己の対日譲歩を「国交正常化とその後の巨額の経済援助と引き換え」と信じ込んでいた。実際、そうだった。日本側はそのような口約束を事前にしていた。だが、国民が怒り狂った。それまで眠っていた愛国心や生存本能が目覚めた。情けないことに、交渉に当たった政治家と外務官僚は、国民がどれほど憤るかということすら事前に予想していなかった。つまり、意図的に相手を騙したわけではないが、結果的に騙す形となって拉致被害者の一部帰国と相手の謝罪が実現した。
 今度は意図的に騙すべきである。北朝鮮は嘘つきの常習犯であり、今までわれわれを騙し続けてきたし、これからも騙すつもりだ。誘拐した日本人を人質カードにして日本から経済援助を引き出そうと企図するような外道である。このような相手に対して、いかなる容赦も遠慮もいらない。いくら騙しても許される。今度はわれわれが騙し続ける番だ。これからも騙せるだけ北朝鮮を騙すべきである。
 方便としてならば、これからもどんどん国交正常化と経済援助をアピールすればよい。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

15・拉致問題の解決に結局アメリカは役に立たなかった 日本向け2部(15/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

15・拉致問題の解決に結局アメリカは役に立たなかった
 私の考えでは、従来の対北政策は上記以外にも、二つの目に付く誤りを犯している。
 ひとつは、拉致問題解決のために一貫してアメリカの対北政策に依存しつづけたことである。私は拉致問題の解決案を初めて公にした03年1月以来、アメリカを一貫して無視し続けてきたが、これは日米同盟に対する過大な幻想がなく、また対北朝鮮において日米の国益が一致し続けるとの根拠も見出すことができなかったためである。
 まずアメリカ人は一人も拉致されていないし、北朝鮮から韓国と日米を攻撃する理由も見当たらない。太陽政策が金大中からノ・ムヒョンへと継承されたため、朝鮮半島に米軍が駐留し続ける意味すらなくなり、近い将来に撤退することも予測できた。アメリカの安全保障にとって脅威と呼べるのは、北朝鮮による核と核技術の拡散だけである。
 いったい、アメリカが日本人拉致問題の解決に尽力しなければならない理由がどこにあるだろうか? おそらく、そのような可能性が成り立つのは、アメリカが日本に対して無条件に友情と善意に満ちた国である場合においてのみである。
 私はむしろアメリカの対北政策を危険視していたくらいである。イラクへの攻撃を主導したと言われる当時国防委員長のリチャード・パールは、「イラクの次は北朝鮮だ」と公言していたが、このような軍事力行使は拉致問題に最悪の結果をもたらす可能性があった。
 たしかにアメリカが北朝鮮を空爆すれば、金正日政権は崩壊しただろう。しかし、果たして拉致問題は解決しただろうか。囚われの身にある日本人拉致被害者たちが「敵国人」として処刑された可能性もあったに違いない。いや、それだけではない。日本国内が弾道ミサイルとテロ攻撃の標的になる可能性もあり、拉致問題どころではなくなっていた。
 北朝鮮の陸海空軍はボロ軍隊であり、脅威とはいえない。しかし、国内の原発すべてを標的にしているとも言われる約二百発の弾道ミサイルによる攻撃と、一説によると数百名とも言われる潜入工作員によるBC兵器などを駆使したテロ攻撃は、日本国内に大きな惨禍と大混乱を招くに十分な破壊力がある。日本の軍事専門家はノドンミサイルの命中率の低さを指摘するが、近年ではあらかじめ潜入している工作員が標的の近くにミサイル誘導のための電波発信装置を取り付けることが分かっている。
 むろん、このような対日また対米攻撃は、北朝鮮にとって自殺行為である。よって彼らのほうから先制攻撃という形で実行する可能性はゼロだ。彼らがこのような攻撃を行う可能性があるとすればただ一つ、それは自らが滅ぶ時の「道連れ」である。そして、ネオコン主導のアメリカが北朝鮮の空爆を開始した時が、まさにそれに当たるのだ。
 よって当初、私はアメリカの対北政策に非常に危険なものを感じていた。ネオコンの凋落と共に軍事力行使のオプションが消えうせたのは、まことによかったと言えよう。
『対北朝鮮・中国機密ファイル』(文芸春秋)によると、03年2月に訪中した当時パウエル国務長官は、江沢民との会談で朝鮮問題をもっとも重要なテーマとして話し合い、「多国間協議の形で核危機の解決を実現させるためには中国による建設的な働きかけが不可欠である」と訴え、「アメリカ国内には朝鮮に対して武力行使を主張する強硬派の政治家が数多くいることを説明した」という(同176)。この会談のあと、中国はそれまでの態度を一変させ、北朝鮮に対して多国間協議を受け入れるように働き始めたそうだ。
 このことからすると、対イラク政策でネオコンとパウエルの路線対立があったように、対北朝鮮政策でもまた、まったく同じ対立がホワイトハウス内にあり、ブッシュ大統領がその両者の間で常に揺れ動いていたことが想像できる。
 05年9月からは米財務省が金融制裁に踏み切った。その結果として北朝鮮が国際的な商取引から締め出される可能性が生じたことは、当時の北朝鮮にとって死活問題だったようだ。今にして思えばこの頃がもっとも効果的な対北制裁が行われていたようだが、当時の小泉総理は一貫して対話路線を支持しており、制裁には連動しなかった。ちなみに小泉氏は北朝鮮を対話のテーブルに引きずり出し、拉致問題に日の光を当てた功績者であるが、入り口の段階で悪事を行った国家に褒美を与えるという道理のない問題解決の枠組みを作ってしまったことが今日でも禍根になっている。
 06年9月に安倍政権が誕生し、安倍総理は対北制裁路線に切り替えたが、タイミングの悪いことに、ちょうど同じ頃にアメリカは対北政策の転換を行ったようだ。つまり、ブッシュ大統領がネオコン案を排除し、代わりに国務省案を推進することを決断したのである。それが07年1月のベルリン合意という形で結実し、現在に至る流れとなっている。
 アメリカは現在、よど号の犯人の送還と引き換えに、北朝鮮をテロ支援国指定から解除し、米朝国交正常化と朝鮮半島の休戦状態の終結を目論んでいる。彼らの目には、拉致問題にこだわる日本がその流れに反する障害物とさえ映り始めている。北朝鮮もまた日本を和平推進の障害物に仕立て上げ、孤立させる策略でいるに違いない。
 安倍前総理は訪米した際、ブッシュ大統領に対して日本人拉致問題が解決しない限り北朝鮮をテロ支援国リストから外さないよう懇願し、一応の了承をえたという。だが、文書で誓約したわけでもないし、そのような口約束は信じるに値しない。仮にブッシュが外さなくとも、次の大統領が外すだけである。議会との調節等の関係もあり、おそらく08年の半ば以降には、北朝鮮はテロ支援国指定から解除されるのではないか。その流れを睨んで、また有形無形の圧力をアメリカからも受けて、福田総理もまた「対話」路線に転換し、早期の日朝国交正常化の実現を模索しているところではないか。
 だが、くり返しになるが、仮に総理が「拉致被害者数名の返還・よど号犯人の引渡し」程度で「拉致問題は解決した」として幕引きし、国交正常化を約束した場合、大変な事態に発展するだろう。普通の想像力があれば分かることである。今次「日朝戦争」においては大義はわれわれにある。その大義の側が悪に屈した場合、国民はそのような国辱にとうてい耐えることができない。国民の目線は政治家のそれとはまったく異なる。一般市民の憤怒の矛先は必ず自身の為政者に向かうだろう。これは古今東西、普遍的に見られる現象である。ある種の反政府右翼の過激派が生まれる可能性すらある。
 いずれにせよ、こと拉致問題の解決に関しては、日米同盟がまったく役に立たなかったことがはっきりした。私にしてみれば、これは己の既定路線の正しさの再確認であるが、アメリカの対北姿勢を一貫して解決のアテにし続けていた人々にしてみれば、己の甘さを思い知らされるショッキングな現実に違いない。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

16・累積戦略は最初から破綻していた 日本向け2部(16/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

16・累積戦略は最初から破綻していた
 ふたつ目の誤りは、累積戦略が極めて中途半端であったことである。
 この戦略の実例として挙げられるのが、第二次大戦中にアメリカ海軍の潜水艦部隊が日本の船舶に対して行った無差別攻撃である。個別の攻撃がすぐに効果を表すわけではないが、それでもその攻撃が累積することで、補給や物資の輸入が徐々に細り、日本の国家としての戦争遂行能力が確実に削がれていった。具体的にどの時点かは分からないが、ある一定の限界を超えたところで、当時の日本経済は結果的に回復不能な状態に陥った。
 要は小さな成果を少しずつ積み重ねていくことで、いつかは敵対する相手が耐えられる限界を突破するということであり、ボクシングに例えるならばストレートパンチではなく、じわじわとダメージを与えるボディブローのようなものである。
 このような累積戦略を対北政策に当てはめれば、「対話と圧力」の後者の部分である経済制裁に相当する。安倍前政権の時の拉致問題対策は、このようにして北朝鮮を経済的苦境に追い詰めつつ、一方で「拉致問題などの諸懸案を解決すれば国交正常化して莫大な経済援助をしようではないか」と囁き続けることで、相手のほうから歩み寄ってくるのを粘り強く待つというものであった。
 たしかに、このような方針によって仮に北朝鮮が耐えられると自負する限界を突破することができれば、彼らとしては白旗を揚げて歩み寄るか、それともそのまま我慢し続けて内部崩壊するか、どちらかの選択肢しかなかったであろう。
 このような累積戦略は直ちに効果が表れるわけではない。分かりにくいが、しかし着実に効果を発揮していると知る手がかりになるのが「悲鳴」である。北朝鮮があれだけ口汚く安倍前政権を非難していたということは、相手が「痛み」を感じていた証拠である。これを指してかの毛沢東は、「敵がこちらを罵っている時は自分たちが正しいやり方をしている証拠だ」と喝破した。安倍前総理は朝鮮総連にメスを入れるという、戦後、どの為政者もやらなかったことを実行してみせた。その時の北朝鮮の反応は犯罪者のヒステリックな断末魔に似ており、圧力路線が徐々に効果を発揮しつつあった証拠であった。
 この累積戦略は継続しなければ意味がない戦略である。よって、わが国ははっきりと目に見える効果がないことに焦らずに、これからも腰を落ち着けて北朝鮮に対する経済制裁を続けるべきである。もし中止すれば、今までやってきた努力がすべて無駄になってしまうだろう。
 さて、以上のような安倍前政権の対北路線は、基本的には正しかったと思う。だが、何が悪かったかというと、徹底してやらなかった(というかできなかった)ことである。それゆえ、私は当初からこの累積戦略の効果を疑問視せざるをえなかった。
 第一に、金正日政権を支える日本国内の資金源が完全に断たれていないのではないだろうか。金正日自身が日本から送金されるパチンコ資金によって支えられていると発言していることから、経済制裁の本丸がここにあることは明白だ。総連中央と支部の経営する店舗は収益が悪化しているらしいが、それでも国内のパチンコ店の約3割が在日朝鮮人系と言われている。以前はそのような商工人が朝銀を通して金正日に献金していたが、朝鮮総連と朝銀が財政破綻して以降、その仕組みは断たれたと考えられている。だが、朝銀を通さないで献金する何らかの方法があるのではないか。現実にパチンコ店舗という日銭を集金する装置があり、また朝鮮労働党の日本現地組織である学習組というヒトの集団がある。この二つを切り刻まない限り、集金と送金の抜け道はいくらでも残っているはずだ。さらにパチンコ店以外にも、風俗店や飲食店などが商工会に所属することで事実上、脱税し放題であり、その資金の一部が商工会を通して金正日政権を支えているという。
 だが、政府が本当にこの闇を暴くことができるのか。大物議員の中には朝銀に仮名口座を持っている者もいるという。1兆数千億円もの公的資金が注入された際、私が直感的に疑ったのは、それを推進した議員にその公的資金の幾らかが朝銀口座を通してキックバックされた可能性である。そこまで露骨でなくとも、どれだけの大物議員が朝鮮総連や朝銀と裏で関係しているか不明瞭だ。また、パチンコ業界は、政界だけでなく、そこを天下り先とする警察と、広告主とするメディアにとってもアンタッチャブルである。このようなタブーが存在している限り、本当に資金源を断つことはできないはずだ。
 第二に、中韓の非協力と日朝貿易に対する監視の不徹底である。
 中国は中央・地方政府、そして軍が北朝鮮に対して経済援助を実施している。食糧や燃料、そして現金まで援助してきたという。また、中朝貿易が年々、急拡大し、今では国境を凄まじい勢いで物資が行き交っている。北朝鮮はこのような中国との経済交流に活路を見出しており、公的な援助だけでなく今や中国の民間資本の投資までが豊富な鉱物資源や森林資源、安価な労働力などを求めて北朝鮮に殺到している。
 韓国も同様である。ノ・ムヒョン政権は北朝鮮に対する援助を「投資のチャンス」とまで言い切っている。今度の6カ国協議の帰結により、同政権は今後、北朝鮮の体制を支え続けるためのエネルギーや食糧などの経済支援、インフラ整備支援などをますます活発化させるだろう。また、こういった政府レベルだけでなく、民間レベルの投資と貿易もますます増大している。韓国企業は北朝鮮の安価な労働市場に注目しているという。
 さらに、ロシア、アメリカ、EUからも、北朝鮮の有する豊富な鉱物資源や今後の経済成長を見込んで投資が向かう。その動きは米朝国交正常化後にさらに加速する。
 日朝貿易も実態としては継続していると言われる。北朝鮮の核実験後、政府は北朝鮮籍船舶の入港を全面禁止しているが、規制の対象外である第三国の船舶を利用することで抜け道になるという。また、北朝鮮の物資を中国やロシアの港でいったん積み替えればルーツを偽装することも可能だ。民間の貿易業者はあっという間にこういった抜け道を考えるものである。当局にはこれを取り締まる方法もマンパワーもない。
 以上のことから、累積戦略としての経済制裁は最初から破綻していたのである。
 これでは北朝鮮を“経済的に追い詰める”ことなど不可能だ。改正外為法・特定船舶入港禁止法は珍しく政治主導で成立した法律であり、参画した政治家たちは「伝家の宝刀」だと自負していたが、相手を倒せる武器にはなりえていないので伝家の宝刀とは呼べない。仮に05年に始まったアメリカの金融制裁が今日まで継続していたとしても、本当に北朝鮮が内部崩壊していたか否かは分からない。
 私は一貫して、「経済的に困窮した北朝鮮のほうから歩み寄ってくるのを待つ」という対北戦術の有効性に疑問を持ってきた。結局のところ、わが国の対北経済制裁は自分で信じたがるほどの効果はないし、北朝鮮側にも「わが国は日本の経済援助がなくともやっていける」という確信があるのではないだろうか。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
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17・対北戦略はゼロベースでの見直しが必要だ 日本向け2部(17/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

17・対北戦略はゼロベースでの見直しが必要だ
 以上の意味するところが従来の対北戦略の誤りと頓挫でなくて何であろうか。
 このような現実は苦いものである。だが、現実こそが真理であり、仮に現実と戦略が齟齬をきたした場合、それは戦略が間違っていることを意味する。
 ところが、かつてこの単純な真理に気付かなかった集団、否、国家があった。戦前の日本軍であり、大日本帝国である。当時の戦争を指導したのは日本一のエリートと呼ばれた陸大卒の集団である。だが、その人たちは破滅するまで現実を受け入れなかった。今日の日本でも、このような過去の誤りが踏襲されてはいないだろうか。
 私は現在の日朝間の状況を、弾こそ飛ばないが事実上の「日朝戦争」と位置づけている。戦争に勝つとは、戦争目的を達成することである。その目的とは、拉致問題を解決することである。現在、政府は「拉致被害者とその家族の生存者の帰国」「真相究明」「拉致被疑者の引渡し」の三点セットをもって「拉致問題の解決」と一応定義している。後の二つはとりあえずは後回しでもいいだろう。つまり、「拉致された日本人を取り戻す」ことこそ、今次日朝戦争におけるわが国の戦争目的に他ならない。
 この目的は未だに達成されてない。最近は「拉致敗戦」という言葉まで使われ始めた。戦争は戦略に基づいて遂行される。その戦略が正しいか、間違っているかを判断するのは簡単である。勝利していれば戦略は正しく、敗北していれば戦略が間違っているということだ。よって、わが国の従来の対北戦略は間違っていたことが証明されたのである。
 これからも「日朝平壌宣言に基づいて粘り強く説得」したところで、また経済制裁を実行しつつ他方で「拉致問題などの諸懸案を解決すれば国交正常化して莫大な経済援助をしようではないか」と囁いたところで、北朝鮮が拉致被害者全員を返還することはないだろう。彼らはあくまで日本を政治的に追い詰め、妥協を引き出す作戦である。
 現在の政府の方針は、「拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化もなし」というものだが、では仮にこの方針をひるがえせばどうなるだろうか。つまり、先に国交正常化し、莫大な経済援助を与えた場合、北朝鮮は拉致被害者全員を返還するだろうか。
 この可能性もやはりありえない。仮に彼らが事前に「返還しよう」と口約束をしたとしても、結局は裏切るだろう。なぜなら、彼らは「己の利己的な利益を貪るためにいかに相手を騙し、利用するか」という行動基準以外は持たないからだ。「貰うモノさえ貰ったら、あとは恩を仇で返す」というのが彼らの一貫した姿勢である。
 そのことに関してはすでに前例がある。日本はかつて北朝鮮に対して大量の米や医薬品などの援助を実施した。金正日政権への事実上の献金に等しい朝銀への1兆数千億円もの公的資金投入にも応じた。だが、これで相手が日本に対して何らかのお返しをしただろうか。なんでも後に「日本が謝罪の米を持ってきたので、貰ってやった」とうそぶいたそうである。02年の日朝首脳会談の際も、拉致の事実をギリギリまで認めなかった。金正日がそれを認めて謝罪したのは、そうしないと経済援助が貰えないと思ったからだ。要は欲に駆られただけの話であり、本心から己の非を認めたわけではないのである。
 今ではロシアと中国もこの点で北朝鮮を見放している。彼らの北朝鮮観もまた「いくら援助してやっても恩を仇で返す」というもので、このような感想はどうやら万国共通らしい。今や韓国の左派政権までが「過去の清算」なる名目で日本から巨額の経済支援を毟り取ろうという貪欲な目論見に加わり、南北朝鮮共同で日本に敵対し始めた。彼らは今後とも強請り・タカリ以外の対日行動をとらないだろう。こんな連中と本気で「対話」ができると信じている人がいるとしたら、よほどの性善説の信奉者に違いない。
 私が心配しているのは、「このままでは埒が明かない」と思った日本政府が妥協案に傾くのではないかということだ。たとえば、「拉致問題のシンボル的存在である横田めぐみさん他数名の帰還」と「よど号メンバーの引渡し」程度で「拉致問題は一応の解決をみた」と再定義し、国交正常化に動き出すことである。
 だが、これこそ北朝鮮が待ち望んでいる行動である。彼らは「日本側を妥協させるには安倍の強硬路線が通用しないことを思い知らせればいいのだ、そうすれば日本は対話重視に転換する」と考えていたはずである。だから、安倍政権の時には「対話しない」と言って公には扉を閉ざしたのだ。よって私ならば北朝鮮の事前の思惑とはあえて逆をいく。つまり、より一層の強硬路線であり、さらなる制裁の連発である。
 そうすれば北朝鮮は、「せっかく安倍を退陣させたのに、福田が予想通りの対話路線ではなく強硬路線に転じたとはどういうことだ?」とひどく混乱するだろう。そして従来の対日分析の誤りを認め、「拉致問題で日本側を妥協させることは、どうあがいても不可能なのだ」と諦めるに違いない。
 だが、福田政権がこのような「逆転の発想」に打って出る気配はなく、むしろ敵の予測通りの行動をとる可能性が高い。それに合わせるかのように北朝鮮勢力による日本国内の世論工作も活発化している。インターネットなどでは、拉致問題に対して早期幕引きの空気を作り上げるために、とくに拉致家族会の信用を失墜させることに力点が置かれている。おそらく在日朝鮮人工作員によるものと思われるが、被害者のご家族である横田氏や増元氏らに対して、「税金の無駄遣いだ」「政治に口を出すな」「日本国民はもう支持していない」などの罵詈雑言が浴びせられている。また、必ずしもこの工作に影響されたわけではないだろうが、「拉致問題疲れ」のためか国内の雰囲気も微妙な変化を見せ始めている。
 私は、政府がこのような国内の情勢、また非核化を成し遂げた北朝鮮に対して見返りを与えていくという国際社会の流れに影響されて、「拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化もなし」という従来方針を修正し、「拉致問題に少しの進展があれば北朝鮮との国交正常化もありうる」という方針に転換するのではないかと恐れている。
 だが、このような意味での対北戦略の見直しは、日本の歴史に必ずや禍根を残すことになるだろう。北朝鮮の思惑通りであり、すなわち「拉致敗戦」への序章に他ならない。
 政府の対北戦略に今一番求められているのは、従来にはないまったく新しい発想である。そして日本にはまだ対案が残されている。そのひとつが「山田案」である。これは日本が自身のインテリジェンスで戦後最大の国難を解決しうる可能性を示している。
 たしかに、山田案は従来策とはまったく異質の策である。なにしろ、「不幸な過去の清算」とか「日朝国交正常化」といった行為を根本から否定している。そのようなことは一切やる必要がないと主張している。代わりに「ODAを戦争賠償として放棄することを謳った新日中条約の締結をエサとして、中国を拉致問題解決に駆り立てろ」と訴えている。
 このような発想はまったく素人のそれであり、荒唐無稽で常識外に思われるのも仕方がない。だが、逆にいえば、ゼロベースでの刷新を迫られた場合、従来策とはできるだけかけ離れた策に着目するのも有力な手である。戦争とは生きものだ。ゆえに常識に束縛されてはならず、勝利のためにはあらゆる可能性を模索する柔軟性が必要である。
 実は戦争においては、意外と個人の発想や才能がモノを言う。仮に秋山真之や明石元二郎がいなければ日露戦争の行方はどうなっていただろうか。「彼らがいなければ、その代わりが現れていた」と考えるのは間違いである。その証拠が太平洋戦争だ。満州国を建国しながら、日中戦争には反対し、対米決戦をはるか後に設定していた石原莞爾は、一時期、陸軍参謀本部のトップに立って戦争を指導してもおかしくはない軍内コースにいた。だが、彼はそこから締め出され、代わってトップに立ったのが東条英機だった。石原に代わる者はどこにもいなかったのである。その結果が先の悲惨な敗戦だった。
 苦い現実を直視できず、あくまで従来の誤った戦略にしがみつけば、拉致問題も敗戦という結果を迎えるだろう。だが幸い、日朝戦争はまだ継続しており、敗戦が確定したわけではない。今ならまだ軌道修正が間に合う。従来の戦略が間違っていたならば、別のやり方を採用すればよいだけだ。そして日本にはまだ対案がある。
 たしかに敗北の現実を認めるのは苦渋であり、格別の勇気がいる。戦略のほうを修正すべきとは考えず、現実のほうが間違っていると考えるのが、とくに自己の無謬性にこだわる役人の病弊であると言われている。だが、真の政治家ならばそうではないはずだ。
 とくに戦略全体を俯瞰しつつ、今次日朝戦争を指揮する立場にある最高司令官ならば。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
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・中国向け2部(1~15/15)

18・専制国家特有の弱点と極東安保体制の急変に注目すべきだ 日本向け2部(18/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

18・専制国家特有の弱点と極東安保体制の急変に注目すべきだ
 さて、以下に改めて山田案の有効性を訴えていきたい。
 私は「わが国は相手の弱点を間違えてきた」と言ったが、では真につけ入ることのできる弱点とは何だろうか。それは大きく分けて二つある。
 02年の日朝平壌会談から5年。「終身政権」である金正日は、拉致問題を筆頭とする対日外交にあたり、常に長期の戦略で事に当たることが可能であったため、今次「日朝戦争」においてはわれわれよりも常に有利な立場にあったといえる。
 しかし、時間の経過はひとつだけ日本に有利な点をもたらした。それこそが金正日の「老い」なのである。1942年2月生まれの金正日は現在65歳だ。しかも病魔に蝕まれているという説もあり、事実、長期にわたっていわゆるメタボリック症候群であることは素人目にも明らかであり、循環器系に障害を抱えていたとしても驚くに値しない。
 独裁者は老いた。権力中枢にいる誰もが内心で「金正日政権の先は長くない」と思っているはずだ。世宗研究所の室長によると、「満70歳になる2012年を前後して次男の金正哲(ジョンチョル)を公式指名する可能性が高い」という(韓国中央日報07.10.01)。だが、後継者が誰であれ社会に喧伝されていない状態というのは、換言すれば「軍民の忠誠心が未だ新しい指導者に向いていない状態」であることを意味している。
 つまり、現在は「独裁者の先が長くないにもかかわらず、社会を掌握できるその後継者も決まっていない状態」という、実に微妙な時期なのである。このような時期が政治的に不安定と化すのは専制国家特有の欠陥である。そして以上が第一の弱点なのである。
 この状況こそクーデターのチャンスである。なぜなら、独裁者の取り巻きたちがもっとも浮き足立ちやすい心理状態にあると考えられるからだ。中国や李氏朝鮮の王朝史を見ても分かるように、このような時にこそ指導内部が紛糾し、党争や内乱が頻発する。
 私は拉致問題を根本から解決する一つの策として「クーデター使嗾策」を挙げた。
 私が現在、このような急進的な策に傾いている理由も、「独裁者が老い、後継者も未だはっきりしない」という、このような現北朝鮮情勢を鑑みてのことである。戦争は刻々と変化する生きものであるから、何よりも柔軟性を失ってはならないのだ。
 問題はこのような提案を中国が受け入れるか否かであるが、「必ず受け入れる」と確信するに足る理由がある。一つは水面下での中朝関係の悪化である。もう一つは、それと関連して極東の国際情勢・安保体制が根幹から変化しつつあることだ。
 これが現在、北朝鮮が抱えつつある第二の弱点である。
 現在、中国側が北朝鮮に対してひどい不満を募らせており、このことは最近刊行された『対北朝鮮・中国機密ファイル』(文芸春秋)でも明らかにされている。それに伴い、米朝接近はあるアメリカの裏の意図を浮き彫りにしつつある。それは北朝鮮を対中国の駒に仕立て上げようという目論みである。イラクに次いで北朝鮮を攻撃するつもりだったネオコンの時代には、北の核ミサイルは日米に向けるために開発されていたが、米朝が対中国で地下同盟を結べばそれが中国向けへと変化することは必至である。これに対して中国がどのような危機感を募らせているかは想像するまでもない。
 かつて北朝鮮は、中国にとって「対米緩衝地帯」としての戦略的価値があった。これが朝鮮戦争の際、連合軍の反攻が鴨緑江まで迫った際に毛沢東が大規模な介入を決意した理由である。だが、今や韓国のノ・ムヒョン政権が戦時作戦統制権の返還を主張しており、米韓首脳はそれに合意した。アメリカ側は09年の前倒し返還の実施を主張している。この流れは朝鮮戦争の休戦状態の終結と在韓米軍の最終的な撤退を意味している。これによって中国から見た北朝鮮の戦略的価値が根本的に変化した。はっきり言えば「支える価値がなくなった」ということである。
 実はこの「中国に対する戦略的価値の喪失」こそが、北朝鮮にとっての大きな弱点なのである。それまで中国は、北朝鮮という国家を「お荷物」と思いながらも、食糧や燃料を供与してその体制の崩壊を防がねばならなかった。だが、米軍撤退の流れが決まった今では、北朝鮮は本当に「ただのお荷物」と化してしまった。いや、あえて支える必要がなくなっただけでなく、邪魔者・危険物とすら化しつつある。おそらく、現在の中国の眼には、以下のように映っているはずだ。
 中朝関係の悪化とその裏返しである米朝接近に伴い、北朝鮮は何やらアメリカと裏取引を始めたらしい。せっかく在韓米軍が撤収し、朝鮮半島が丸ごと太平洋の海洋勢力に対するバッファーになると楽観していたのに、どうやら肝心の北朝鮮がわが中国を裏切ってアメリカの手先になろうとしている。近い将来、北朝鮮は米軍を呼び込んで核ミサイルさえ中国に向けかねない状態だ。これはわが国にとっての“キューバ危機”である…。
 このように危惧する中国にとって、金正日政権は今や国益に反する邪魔者に他ならないはずだ。つまり、驚くべきことに、今や金正日を排除する点において日中の国益が一致しつつあるのだ。これで中国はますます日本の対北政策における臨時同盟国にふさわしく変化したわけである。03年1月の段階から「拉致問題解決の鍵は中国である」と一貫してブレずに主張し続けてきた山田案の正しさが改めて証明されたと言えよう。むしろ今では金正日と裏で何かの密約を交わし、日本人拉致被害者を切り捨てたアメリカのほうが、逆に拉致問題を解決するにあたっての障害であると評したほうが正確ではないのか。
 よって、仮に日本が上記の「クーデター使嗾策」を中国に提案すれば、非常に歓迎されるに違いない。ODA債権の放棄はそのための代金も兼ねていると考えればいい。
 中国としても、クーデターによって金正日政権を転覆させ、その数年後に半島を統一させても問題はなくなった。むしろそうしたほうが朝鮮半島を丸ごと太平洋の海洋勢力に対するバッファーに仕立て上げることができる。しかも「同じ民族」の韓国が存在するおかげで、厄介な後始末を押し付けることも可能だ。今までは生意気な属国に懲罰を加えたくてもできなかったが、それが遠慮なくできるようになった。よって北京オリンピックの終了後ならば、胡錦濤政権は金正日を排除することに対して躊躇しないだろう。
 以上の「二つの弱点」を考慮するなら、日本政府がとるべき拉致問題の解決策が山田案以外にありえないのは明白である。幸い、中国にはこの種の作戦を実行するだけの情報力・政治力・軍事力がある。日本にはどれもない要素ばかりである。
 ところで、いやしくも戦後平和日本がクーデターによる外国政権転覆を共同謀議、あるいは自分から申し出たという事実が国民に知れ渡った場合、どう対処すればいいのかという心配を抱く政治家もいるかもしれない。内閣が、与党が倒れるのではないかと危惧する人もいよう。だが、私はそのような考えはまったくの杞憂であるとして一笑に付す。
 これは日朝戦争である。われわれは国家の命運を賭けて勝利せねばならない。非常手段は当然であり、それによってわが国は拉致問題を根本から解決し、その真相をついに明らかにすることができる。おそらく、拉致された日本人の数は数百人、そして死亡率は場合によっては過半数…というのが真相ではないか。それを知った時、国民はどんな反応を示すだろうか。誰もが驚愕し、恐怖し、激怒するだろう。そして「よく腹をくくって大胆な決断をしてくれた」と福田総理と政府を高評価するに違いない。社民党の「戦時中の日本を思い起こさせる」等の小児左翼的な主張は激昂した世論の前に一蹴されるだろう。
 よって、逆に「金正日をクーデターで打倒したのは日中共同作戦であり、大本はわが国の発案だ」というふうに堂々、胸を張るほうが政治的に得策ではないか。私ならば09年に予定されている総選挙での圧勝を睨んで、そのような積極策に出るだろう。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

19・中朝関係悪化の経緯 日本向け2部(19/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

19・中朝関係悪化の経緯
 この項は最近刊行された『対北朝鮮・中国機密ファイル』(文芸春秋)に負うところが大きい。今まで秘匿されていた“中国からみた北朝鮮”の情報がこの時期にどっと表に出てきたことは、中朝関係の変化を示唆する出来事として興味深い。たとえば、中国から北朝鮮への毎年の援助総額が120億元(約1900億円)であり、06年7月には北朝鮮側がそれを300億元に増やすよう要求して両者の交渉が決裂した、などという裏話は初めて表ざたになるのではないか。
 中朝関係悪化のきっかけは1992年の中韓国交樹立であり、当時、金正日は中国を激しく批判したという。思えばこの頃から金正日の対中不信は芽をふいたようだが、それでも両国関係は完全には冷え込まず、しばらくして平静を取り戻した。
 亀裂が決定的になったのはごく最近、どうやら05年9月の米財務省による金融制裁が発端であるらしい。マカオの「バンコ・デルタ・アジア」が北朝鮮のマネーロンダリングに関与した疑いがあるとして、「マネーロンダリングの主な懸念先」に指定されると、北朝鮮は非常に慌てた。問題はBDAに預けられていた2500万ドルの資金それ自体の凍結ではなく、世界中の金融機関とドルでの国際取引ができなくなることであった。金正日が06年1月に急きょ中国を訪問したのも、このアメリカの金融制裁の解除に関して中国の助力をえるのが主目的だったという。
 ところがVIP待遇を受けたものの、このもっとも重要な目的に対して中国の姿勢は非協力的であり、金正日は深い失望感を味わった。帰国した彼は対中姿勢を一変させる。
 06年7月、北朝鮮は日本海に向けてミサイルを連続発射する実験を実施したが、金正日は中国への事前通告を行わせなかった。日本は即座に米英仏を巻き込んで国連安保理に北朝鮮制裁決議案を提出。当初、中ロが反対し、拒否権をチラつかせるなど交渉は難航したが、最終的に非難制裁決議が全会一致で採択された。中国はぎりぎりまで反対に回る配慮を見せたが、面子を潰されたことが癪に障ったのか、国際社会の空気に逆らうことは得策ではないと判断したのか、結果として採択の賛成に回った。
 この“裏切り”に対して、今度は北朝鮮が怒りを爆発させたという。その夏には両国で外交ルートを通じた抗議や面会キャンセルといった応酬が行われ、感情的な対立が激しさを増していった様子がうかがえる。
 そして同年10月、北朝鮮はついに核実験を強行した。中国への事前通告はわずか20分前であったという。
 それまで中国の指導部は自分たちの了承なしに北朝鮮が核実験を強行することなどありえないと信じていたので、これは青天の霹靂であった。中国は激怒し、かつて冷戦時代に“米帝”を非難する際に使っていた用語まで持ち出して、外交部の公式声明として北朝鮮を非難した。国連安保理では北朝鮮に対する制裁決議案が全会一致で採択されたが、今度の中国は北朝鮮を「かばう」配慮を一切見せず、日米と完全に足並みをそろえた。
 どうやら、核実験は中国にとって二重の脅威と映ったようだ。第一に、中国が北朝鮮の核ミサイルの射程に入ったこと。第二に、日本の“軍国主義”の復活を助長し、日本のカウンター核武装が現実味を増したこと。
 ある意味、中国は自分たちの対北援助が、自身に向けられかねない核兵器開発を助けてきた事実に気づかされたのではないか。しかも、すぐ裏庭で。この辺りは、同じように核とミサイルの開発資金源であった朝銀に1兆数千億円もの公的資金を投入した手先系政治家を抱えるわが国の複雑な心境と通じるものがある。
 この核実験以降、日本の週刊誌などでは北朝鮮高官による「本当に憎いのは中国だ」といった発言も掲載され、中朝両国は潜在的な敵対関係に入ったと思われる。
 さて、以下はこの中朝関係の悪化とちょうど対極をなす米朝の接近に関する私の推測である。
 ブッシュ大統領が金正日を嫌いながらも、対北政策をそれまでの強硬策(ネオコン案)から穏健策(国務省案)へと切り替えたのは、ちょうど中朝関係の悪化が表面化した06年の夏である。果たしてこれは偶然だろうか?
 おそらく、財務省による金融制裁に対する北朝鮮の激烈な反応を見て、アメリカの戦略家の中には自分たちが北朝鮮の心臓を鷲づかみにした事実に気づいた者がいたに違いない。つまり、生かすも殺すも自由というわけである。また、ちょうど同じ頃、中国と北朝鮮の関係がリアルタイムで悪化していく様子を諜報機関を通して横から観察していた結果、史上初めて“ある可能性”が生じたことも明らかになった。それは、もしかしてうまくいけばアメリカが北朝鮮を取り込むことができるのではないか、という可能性である。
 この時に北朝鮮の戦略的価値に気づいたのか、それとも以前からアメリカの対中戦略とエネルギー戦略にとって同国が重要な国家である事実に着目していたのかは分からない。私は後者であると思う。北朝鮮は北京を一番早く核攻撃できる国であり、中国にとっての同国はアメリカにとってのキューバのようなものだ。さらにウランをはじめとする豊富な鉱物資源を有する。ならば、金融制裁で北朝鮮を崩壊させて後始末に苦労するよりも、むしろ取り込んだほうが国益になるのではないか…。そう考え、政権内で主張した戦略家がいたとしても不思議ではない。
 いずれにせよ、06年夏の時点で、現実に中朝関係は急速に悪化し、アメリカは依然として北朝鮮の生殺与奪の権限を握っていた。アメリカは水面下で北朝鮮と話し合う様々なチャンネルも持っている。それにアメリカほどこの半世紀間、表面とは裏腹の秘密工作を外国に対してやり続けた謀略国家もない。
 06年10月の北朝鮮による核実験強行を一番喜んだのも、実はアメリカではないのか。金正日はそれまで、ネオコンのアメリカによってイラクのような目に合わされるかもしれないと恐怖していた。だから「わが国は核を持っているぞ」というパフォーマンスに賭け、アメリカの譲歩を引き出そうと目論んだ。それに対して、腹に一物あるアメリカは、北朝鮮の望みどおりに“敵視政策”を止めてみせ、“非核化”を条件にして「譲歩しようではないか」と態度を変えてみせた。ここで両者の凹凸がかみ合い、歩み寄りが始まった。一方で、この核実験を機に中朝関係は修復不可能なまでに悪化した。
 この流れを北朝鮮の立場から見ると、「米中逆転」が生じたということである。
 皮肉なことに、それは安倍前総理の訪中による日中の関係改善の始まった頃だった。つまり中国の立場から見れば「日朝逆転」である。今や金正日の目から見れば、アメリカが後ろ盾で、日中が敵国と映っているかもしれない。そしてこの構図をわが国のアングルから眺めると、驚くべきことに対金正日においては、アメリカが「敵の友」であり、中国が「敵の敵」となるのだ。つまり、わが国から見てもまた「米中逆転」なのである。
 このように極東情勢は以前とは根幹から変化した。金正日は日中共通の敵と化したのだ。このことは山田案の成功を保障する状況がさらに整ったことを意味する。そしてアメリカは、方針を再度変えない限り、少なくとも対北朝鮮においてはもはや同盟国ではない。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

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