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15・拉致問題の解決に結局アメリカは役に立たなかった 日本向け2部(15/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

15・拉致問題の解決に結局アメリカは役に立たなかった
 私の考えでは、従来の対北政策は上記以外にも、二つの目に付く誤りを犯している。
 ひとつは、拉致問題解決のために一貫してアメリカの対北政策に依存しつづけたことである。私は拉致問題の解決案を初めて公にした03年1月以来、アメリカを一貫して無視し続けてきたが、これは日米同盟に対する過大な幻想がなく、また対北朝鮮において日米の国益が一致し続けるとの根拠も見出すことができなかったためである。
 まずアメリカ人は一人も拉致されていないし、北朝鮮から韓国と日米を攻撃する理由も見当たらない。太陽政策が金大中からノ・ムヒョンへと継承されたため、朝鮮半島に米軍が駐留し続ける意味すらなくなり、近い将来に撤退することも予測できた。アメリカの安全保障にとって脅威と呼べるのは、北朝鮮による核と核技術の拡散だけである。
 いったい、アメリカが日本人拉致問題の解決に尽力しなければならない理由がどこにあるだろうか? おそらく、そのような可能性が成り立つのは、アメリカが日本に対して無条件に友情と善意に満ちた国である場合においてのみである。
 私はむしろアメリカの対北政策を危険視していたくらいである。イラクへの攻撃を主導したと言われる当時国防委員長のリチャード・パールは、「イラクの次は北朝鮮だ」と公言していたが、このような軍事力行使は拉致問題に最悪の結果をもたらす可能性があった。
 たしかにアメリカが北朝鮮を空爆すれば、金正日政権は崩壊しただろう。しかし、果たして拉致問題は解決しただろうか。囚われの身にある日本人拉致被害者たちが「敵国人」として処刑された可能性もあったに違いない。いや、それだけではない。日本国内が弾道ミサイルとテロ攻撃の標的になる可能性もあり、拉致問題どころではなくなっていた。
 北朝鮮の陸海空軍はボロ軍隊であり、脅威とはいえない。しかし、国内の原発すべてを標的にしているとも言われる約二百発の弾道ミサイルによる攻撃と、一説によると数百名とも言われる潜入工作員によるBC兵器などを駆使したテロ攻撃は、日本国内に大きな惨禍と大混乱を招くに十分な破壊力がある。日本の軍事専門家はノドンミサイルの命中率の低さを指摘するが、近年ではあらかじめ潜入している工作員が標的の近くにミサイル誘導のための電波発信装置を取り付けることが分かっている。
 むろん、このような対日また対米攻撃は、北朝鮮にとって自殺行為である。よって彼らのほうから先制攻撃という形で実行する可能性はゼロだ。彼らがこのような攻撃を行う可能性があるとすればただ一つ、それは自らが滅ぶ時の「道連れ」である。そして、ネオコン主導のアメリカが北朝鮮の空爆を開始した時が、まさにそれに当たるのだ。
 よって当初、私はアメリカの対北政策に非常に危険なものを感じていた。ネオコンの凋落と共に軍事力行使のオプションが消えうせたのは、まことによかったと言えよう。
『対北朝鮮・中国機密ファイル』(文芸春秋)によると、03年2月に訪中した当時パウエル国務長官は、江沢民との会談で朝鮮問題をもっとも重要なテーマとして話し合い、「多国間協議の形で核危機の解決を実現させるためには中国による建設的な働きかけが不可欠である」と訴え、「アメリカ国内には朝鮮に対して武力行使を主張する強硬派の政治家が数多くいることを説明した」という(同176)。この会談のあと、中国はそれまでの態度を一変させ、北朝鮮に対して多国間協議を受け入れるように働き始めたそうだ。
 このことからすると、対イラク政策でネオコンとパウエルの路線対立があったように、対北朝鮮政策でもまた、まったく同じ対立がホワイトハウス内にあり、ブッシュ大統領がその両者の間で常に揺れ動いていたことが想像できる。
 05年9月からは米財務省が金融制裁に踏み切った。その結果として北朝鮮が国際的な商取引から締め出される可能性が生じたことは、当時の北朝鮮にとって死活問題だったようだ。今にして思えばこの頃がもっとも効果的な対北制裁が行われていたようだが、当時の小泉総理は一貫して対話路線を支持しており、制裁には連動しなかった。ちなみに小泉氏は北朝鮮を対話のテーブルに引きずり出し、拉致問題に日の光を当てた功績者であるが、入り口の段階で悪事を行った国家に褒美を与えるという道理のない問題解決の枠組みを作ってしまったことが今日でも禍根になっている。
 06年9月に安倍政権が誕生し、安倍総理は対北制裁路線に切り替えたが、タイミングの悪いことに、ちょうど同じ頃にアメリカは対北政策の転換を行ったようだ。つまり、ブッシュ大統領がネオコン案を排除し、代わりに国務省案を推進することを決断したのである。それが07年1月のベルリン合意という形で結実し、現在に至る流れとなっている。
 アメリカは現在、よど号の犯人の送還と引き換えに、北朝鮮をテロ支援国指定から解除し、米朝国交正常化と朝鮮半島の休戦状態の終結を目論んでいる。彼らの目には、拉致問題にこだわる日本がその流れに反する障害物とさえ映り始めている。北朝鮮もまた日本を和平推進の障害物に仕立て上げ、孤立させる策略でいるに違いない。
 安倍前総理は訪米した際、ブッシュ大統領に対して日本人拉致問題が解決しない限り北朝鮮をテロ支援国リストから外さないよう懇願し、一応の了承をえたという。だが、文書で誓約したわけでもないし、そのような口約束は信じるに値しない。仮にブッシュが外さなくとも、次の大統領が外すだけである。議会との調節等の関係もあり、おそらく08年の半ば以降には、北朝鮮はテロ支援国指定から解除されるのではないか。その流れを睨んで、また有形無形の圧力をアメリカからも受けて、福田総理もまた「対話」路線に転換し、早期の日朝国交正常化の実現を模索しているところではないか。
 だが、くり返しになるが、仮に総理が「拉致被害者数名の返還・よど号犯人の引渡し」程度で「拉致問題は解決した」として幕引きし、国交正常化を約束した場合、大変な事態に発展するだろう。普通の想像力があれば分かることである。今次「日朝戦争」においては大義はわれわれにある。その大義の側が悪に屈した場合、国民はそのような国辱にとうてい耐えることができない。国民の目線は政治家のそれとはまったく異なる。一般市民の憤怒の矛先は必ず自身の為政者に向かうだろう。これは古今東西、普遍的に見られる現象である。ある種の反政府右翼の過激派が生まれる可能性すらある。
 いずれにせよ、こと拉致問題の解決に関しては、日米同盟がまったく役に立たなかったことがはっきりした。私にしてみれば、これは己の既定路線の正しさの再確認であるが、アメリカの対北姿勢を一貫して解決のアテにし続けていた人々にしてみれば、己の甘さを思い知らされるショッキングな現実に違いない。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

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