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16・累積戦略は最初から破綻していた 日本向け2部(16/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

16・累積戦略は最初から破綻していた
 ふたつ目の誤りは、累積戦略が極めて中途半端であったことである。
 この戦略の実例として挙げられるのが、第二次大戦中にアメリカ海軍の潜水艦部隊が日本の船舶に対して行った無差別攻撃である。個別の攻撃がすぐに効果を表すわけではないが、それでもその攻撃が累積することで、補給や物資の輸入が徐々に細り、日本の国家としての戦争遂行能力が確実に削がれていった。具体的にどの時点かは分からないが、ある一定の限界を超えたところで、当時の日本経済は結果的に回復不能な状態に陥った。
 要は小さな成果を少しずつ積み重ねていくことで、いつかは敵対する相手が耐えられる限界を突破するということであり、ボクシングに例えるならばストレートパンチではなく、じわじわとダメージを与えるボディブローのようなものである。
 このような累積戦略を対北政策に当てはめれば、「対話と圧力」の後者の部分である経済制裁に相当する。安倍前政権の時の拉致問題対策は、このようにして北朝鮮を経済的苦境に追い詰めつつ、一方で「拉致問題などの諸懸案を解決すれば国交正常化して莫大な経済援助をしようではないか」と囁き続けることで、相手のほうから歩み寄ってくるのを粘り強く待つというものであった。
 たしかに、このような方針によって仮に北朝鮮が耐えられると自負する限界を突破することができれば、彼らとしては白旗を揚げて歩み寄るか、それともそのまま我慢し続けて内部崩壊するか、どちらかの選択肢しかなかったであろう。
 このような累積戦略は直ちに効果が表れるわけではない。分かりにくいが、しかし着実に効果を発揮していると知る手がかりになるのが「悲鳴」である。北朝鮮があれだけ口汚く安倍前政権を非難していたということは、相手が「痛み」を感じていた証拠である。これを指してかの毛沢東は、「敵がこちらを罵っている時は自分たちが正しいやり方をしている証拠だ」と喝破した。安倍前総理は朝鮮総連にメスを入れるという、戦後、どの為政者もやらなかったことを実行してみせた。その時の北朝鮮の反応は犯罪者のヒステリックな断末魔に似ており、圧力路線が徐々に効果を発揮しつつあった証拠であった。
 この累積戦略は継続しなければ意味がない戦略である。よって、わが国ははっきりと目に見える効果がないことに焦らずに、これからも腰を落ち着けて北朝鮮に対する経済制裁を続けるべきである。もし中止すれば、今までやってきた努力がすべて無駄になってしまうだろう。
 さて、以上のような安倍前政権の対北路線は、基本的には正しかったと思う。だが、何が悪かったかというと、徹底してやらなかった(というかできなかった)ことである。それゆえ、私は当初からこの累積戦略の効果を疑問視せざるをえなかった。
 第一に、金正日政権を支える日本国内の資金源が完全に断たれていないのではないだろうか。金正日自身が日本から送金されるパチンコ資金によって支えられていると発言していることから、経済制裁の本丸がここにあることは明白だ。総連中央と支部の経営する店舗は収益が悪化しているらしいが、それでも国内のパチンコ店の約3割が在日朝鮮人系と言われている。以前はそのような商工人が朝銀を通して金正日に献金していたが、朝鮮総連と朝銀が財政破綻して以降、その仕組みは断たれたと考えられている。だが、朝銀を通さないで献金する何らかの方法があるのではないか。現実にパチンコ店舗という日銭を集金する装置があり、また朝鮮労働党の日本現地組織である学習組というヒトの集団がある。この二つを切り刻まない限り、集金と送金の抜け道はいくらでも残っているはずだ。さらにパチンコ店以外にも、風俗店や飲食店などが商工会に所属することで事実上、脱税し放題であり、その資金の一部が商工会を通して金正日政権を支えているという。
 だが、政府が本当にこの闇を暴くことができるのか。大物議員の中には朝銀に仮名口座を持っている者もいるという。1兆数千億円もの公的資金が注入された際、私が直感的に疑ったのは、それを推進した議員にその公的資金の幾らかが朝銀口座を通してキックバックされた可能性である。そこまで露骨でなくとも、どれだけの大物議員が朝鮮総連や朝銀と裏で関係しているか不明瞭だ。また、パチンコ業界は、政界だけでなく、そこを天下り先とする警察と、広告主とするメディアにとってもアンタッチャブルである。このようなタブーが存在している限り、本当に資金源を断つことはできないはずだ。
 第二に、中韓の非協力と日朝貿易に対する監視の不徹底である。
 中国は中央・地方政府、そして軍が北朝鮮に対して経済援助を実施している。食糧や燃料、そして現金まで援助してきたという。また、中朝貿易が年々、急拡大し、今では国境を凄まじい勢いで物資が行き交っている。北朝鮮はこのような中国との経済交流に活路を見出しており、公的な援助だけでなく今や中国の民間資本の投資までが豊富な鉱物資源や森林資源、安価な労働力などを求めて北朝鮮に殺到している。
 韓国も同様である。ノ・ムヒョン政権は北朝鮮に対する援助を「投資のチャンス」とまで言い切っている。今度の6カ国協議の帰結により、同政権は今後、北朝鮮の体制を支え続けるためのエネルギーや食糧などの経済支援、インフラ整備支援などをますます活発化させるだろう。また、こういった政府レベルだけでなく、民間レベルの投資と貿易もますます増大している。韓国企業は北朝鮮の安価な労働市場に注目しているという。
 さらに、ロシア、アメリカ、EUからも、北朝鮮の有する豊富な鉱物資源や今後の経済成長を見込んで投資が向かう。その動きは米朝国交正常化後にさらに加速する。
 日朝貿易も実態としては継続していると言われる。北朝鮮の核実験後、政府は北朝鮮籍船舶の入港を全面禁止しているが、規制の対象外である第三国の船舶を利用することで抜け道になるという。また、北朝鮮の物資を中国やロシアの港でいったん積み替えればルーツを偽装することも可能だ。民間の貿易業者はあっという間にこういった抜け道を考えるものである。当局にはこれを取り締まる方法もマンパワーもない。
 以上のことから、累積戦略としての経済制裁は最初から破綻していたのである。
 これでは北朝鮮を“経済的に追い詰める”ことなど不可能だ。改正外為法・特定船舶入港禁止法は珍しく政治主導で成立した法律であり、参画した政治家たちは「伝家の宝刀」だと自負していたが、相手を倒せる武器にはなりえていないので伝家の宝刀とは呼べない。仮に05年に始まったアメリカの金融制裁が今日まで継続していたとしても、本当に北朝鮮が内部崩壊していたか否かは分からない。
 私は一貫して、「経済的に困窮した北朝鮮のほうから歩み寄ってくるのを待つ」という対北戦術の有効性に疑問を持ってきた。結局のところ、わが国の対北経済制裁は自分で信じたがるほどの効果はないし、北朝鮮側にも「わが国は日本の経済援助がなくともやっていける」という確信があるのではないだろうか。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

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