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北朝鮮による日本人拉致問題の解決策 ブログトップ
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20・絡まりあった紐を一刀両断する解決策 日本向け2部(20/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

20・絡まりあった紐を一刀両断する解決策
 アレクサンドロス大王は、縄が複雑に編まれた「ゴルディオスの結び目」を目の前にして剣で一刀両断してみせた。このように既成概念を覆す非常手段によって複雑化した事態を打開してみせることを、英語でcut the Gordian knotという。
 私はここに作戦名「オペレーション・ゴーディアン・ノット」を提唱するものである。これはむろんクーデターの使嗾により金正日を一気に処断する謀略である。成功の鍵はかつての真珠湾攻撃並みの作戦の秘匿性である。口の軽い政治家を通してたちまち北朝鮮の諜報機関に嗅ぎつけられる事態が予想されるので、閣僚会議にかける等の不用意な行為は慎まねばならず、この辺りは警察庁のカウンター・インテリジェンスの専門家のアドバイスに従って慎重に事を進める必要がある。この策は北東アジア情勢の激変を伴うので、実行の時期は北京オリンピック後しか考えられないだろう。
 要旨は以下である。
 いろいろな情報から判断するに、金正日の宴会仲間であり、直の取り巻きには、最高幹部クラスの将軍たちが含まれている。彼らは宴会で酒を飲むたびに金正日に対する忠誠を誓っている。だが、このような中にこそ、もっとも裏切りを決意しやすい者がいる。なぜなら金正日の表も裏も知っている者ほど幻想を持たないがため、計算ができるからだ。
 選定は中国側に一任する。主謀者には中国側の諜報部員を通して、次の2点を伝える。第一、クーデターには中国軍の全面的な後ろ盾があり、万一の際には中朝同盟に基づいて国境を越えることも選択肢であること。第二、暫定新政権には日中両国から即座に承認があり、さらに両国からの物的支援もさることながら、対日姿勢いかんでは日本との国交正常化とその後の大規模な経済援助もありうること。
 この2点の申し出をもってすれば、金正日に非常に近い、だが二心のある将軍は現政権を見限り、クーデターを決意するだろう。実際、金正日はもってあと数年であり、後継者もあやふやな状態なのだ。このような宙ぶらりんな状態と経済破綻寸前の国内状況に加え、日中の支持・援助まで得られるとなれば、自己保身も相まって政権転覆のチャンスと算段する将軍は必ずいるに違いない。この際、重要なのは機密保持であるが、懸念すべきは日本側(の政治家)からの情報漏れであろう。
 いずれにせよ、彼はある日、どのような方法を使ってか、金正日を暗殺する。そして内外に対して、たとえば次のように声明する。
「金正日総書記は、自らは贅の限りを尽くす一方、人民の貧困と飢餓を放置し、その権力をさらに己の息子に継承させようと画策していた。このたび、真に国を愛する同志たちが集結し、救国のためにやむなく非常手段に訴えた理由は、人民が途端の苦しみに喘ぎ、国家が私物化されているこのような現状に耐えられず、政治を刷新しなければならないと考えたためである。われわれ新政権は国際社会との協調を外交の基軸とする」
 日中はすぐに彼らを承認する。むろん、その他の国際社会を味方にするには、「これは暫定軍事政権であり、最大5年以内に民主的手段によって韓国との平和的統一を果たす」とでも明言させる必要がある。できれば中国軍にも首都やその他の領内に進駐させ、一種の属国政権に仕立て上げたほうが都合がいい。
 いずれにせよ、これで彼らは「救国の英雄」であり、内外から歓迎されるだろう。この時点にまでなれば、国際社会からの承認を印象付けるために、福田総理が訪朝するのも優れた外交手段である。金正日政権が倒れ、新政権が親日政策をとれば、国民は北朝鮮に経済援助を投入することにも納得するだろう。福田総理は英雄氏と存分に握手すればいい。
 さて、わが国はこの段階になってようやく拉致被害者調査団を結成し、現地入りを果たすことができる。安全確保のため中国軍部隊に付き添わせるのも手だ。こうしてわれわれは初めて拉致被害の生存者の確保とその犯罪の真相究明を実行することができるのだ。
 以上で作戦名「オペレーション・ゴーディアン・ノット」は完了する。目的はあくまで金正日政権を処断し、拉致問題を完全に解決することである。
 暫定軍事政権には、数年後に極めて平和的に韓国と統一してもらう。だが、その数年間に日中両国がやるべきことがある。一つは経済援助の見返りとして、ウランとレアメタル資源を分け合うこと。もう一つは、プルトニウムや高濃縮ウランまたその製造装置などを完全に除去し、真に核兵器とその開発能力を奪うこと。この2点は欠かせない。
 ちなみに、この作戦を遂行する際にはアメリカの取り扱いが大きな問題となる。つまり、アメリカを巻き込むか否か、ということである。彼らは水面下で金正日側と独自に何らかのシナリオを進めているため、この作戦に反対する可能性もある。拉致問題の解決に日米同盟が何の役にも立たなかったうえ、新たな解決策まで妨害されたのではたまったものではない。だが、日本がアメリカを出し抜くことなど、とうてい不可能である。秘密裏に事を進めた場合、アメリカは事前にこの動きを察知し、金正日に“告げ口”するだろう。よってアメリカが反対するならば、政権転覆後の利権獲得に一枚かませるしかない。
 さて、以上のような発想を「単なる素人の思い付きにすぎない」と評して哂う人もいるかもしれない。だが、そのような人は現状を打開する対案を示せるのだろうか。
 私は今こそ従来の常識を捨てろと主張したい。「政府として日朝国交正常化を果たさなければならない」という発想を捨て、逆に北朝鮮とは対話のチャンネルを閉ざすことを勧める。あるいは今まで通り「対話のフリ」を続けるのもカモフラージュとしてよいかもしれない。そして国交正常化とは真逆の動きに乗り出すのだ。つまり、金正日政権を潰しにかかる方法や時期について、中国側と水面下の交渉に入るのである。
 この際、われわれが中国に提示する見返りは、先から繰り返すように、ODA3兆円を戦争賠償という形で帳消しにする「新日中条約」の締結である。これは胡錦濤政権が拉致問題の解決に本腰を入れる十分な動機となるだろう。そして、わが国はこれによって中国人民の人心を掌握し、そのことが後に日本の戦略的立場を必ずや強化してくれるだろう。
 現在、「拉致敗戦」など言われ始めている。たしかに相手のほうが一枚上手であることは認めざるをえない。だが、今ならまだ逆転できる。それは政府が山田案を真剣に受け止め、クーデター使嗾策を含めて検討を始めることである。わが国に必要なのは軍事力ではない。戦略とインテリジェンスである。私は民間人であるが、戦争に官も民もない。そして戦争には勝たねばならない。
 一番の壁は、福田総理が戦争指導者として腹をくくれるか否かではないか。もはやわが国には、金正日に屈するか、殺してしまうか、どちらかの選択しか残されていないのだ。これが戦争であるという自覚、また己が戦争指導者であるという自覚を持てる人物ならば、取るべき道が後者しかないことは自明のはずだ。アメリカ大統領のもっとも重要な仕事は戦争の司令官であり、それゆえホワイトハウスの地下にはウォールームがある。同じように、戦争になった場合、日本国総理大臣のもっとも重要な仕事は戦争の司令官である。
 総理には、今こそ胆力を見せてもらいたい。北朝鮮は拉致した日本人を人質カードにして、国交正常化とその後の経済援助を迫る卑怯・下劣な犯罪テロ国家である。こんな連中に容赦する必要があるだろうか? 金正日一味を「斬る」のも一つの政治決断である。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

おわりに 日本向け2部(ラスト/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

おわりに
 02年の「9・17」から5年が過ぎた。横田めぐみさんたち拉致被害者は、未だに北の牢獄に囚われの身だ。最近、北朝鮮は「拉致事件は架空の誘拐事件」とか「拉致被害者はもういない」などと直接・間接にうそぶいている。
 私が政府要人に対して同問題の特殊な解決策である山田案を提示したのは、小泉元総理の日朝首脳会談から数ヵ月後にあたる2003年の初頭であった。私はそれから一貫して「北朝鮮に代償を支払うことなく拉致被害者を取り戻す方法はこれ以外にない」と主張し続けてきた。幸い、山田案は以後の状況の変化にも耐え続け、むしろいっそう有効性を浮き彫りにしてきた。
 今触れたように、06年の夏を境にして状況が大きく変わり始めた。中朝関係が急速に悪化し始め、逆にそれまで最悪だった日中の関係改善が急速に進んだ。一方、アメリカは対北政策をネオコン案から国務省案へと転換し、拉致問題を切り捨てた。アメリカはブッシュ政権の任期内に北朝鮮をテロ支援国リストから外して国交正常化にこぎつけ、もって同政権における外交面での歴史的功績として残すつもりのようだ。
 はっきり言えば、アメリカはわが国を裏切ったのだ。わが国はアフガン戦争では兵站の一翼を担い、イラク戦後復興に莫大な資金的人的援助を行い、米軍の世界再編にも巨費を投じて協力している。それでいて、この仕打ちである。問題はむしろわれわれのほうがこの現実を受け入れることができるか否かであろう。
 だが、私に言わせれば「さもありなん」である。山田案では、当初から一貫してアメリカを無視してきた。これだけでも大勢の考えとはまったく逆を行っていた。
 私がアメリカに過大な幻想を抱かなかったのには訳がある。たとえば、韓国による竹島の侵略と占領に対する対応である。日本の領土が外国軍による侵攻を受け、今も実効支配を受けている事実は、立派な安全保障上の問題だ。当然、日米安保条約の適用範囲である。だが、今までアメリカが何をしてくれたというのか。これは米軍が日本国の安全に寄与することを条件にわが国内への駐留を認められると定めた同第六条に違反する可能性すらある。また、かつてモンデール元駐日大使のごときは、「尖閣諸島をめぐる紛争に日米安保は適用されない」などと発言した。これが“同盟”の現実なのである。
 山田案が正しかったことは、他にも証明された。たとえば、私は当初からすぐに北朝鮮に対して経済制裁すべしと訴えたが、一方でその効果についてもはっきり疑問視すると述べた。そう考えた理由は、「16・累積戦略は最初から破綻していた」で詳しく説明している。小泉元総理は任期中ずっと対話路線で通したが、私は「対話路線であっても将来の圧力路線であっても拉致問題は解決しない」と文中で明言した。案の定、今では「北朝鮮を経済的に追い詰める」どころか、日本のほうが政治的に追い詰められている。私はまた、「金正日には拉致した日本人全員を返す意志など当初からなく、せいぜい安否不明者10人の返還くらいで完全幕引きを狙っている」と主張したが、これもその通りだと言わざるをえないし、今では日本のほうが相手のこの思惑に転びかかっている。
 また、私は当初から韓国を北朝鮮の同類と見なし、拉致問題に関して共通の利害を有しているなどという幻想を持たなかった。だから一貫して「敵側」に分類してきた。案の定、韓国は北朝鮮に貢ぎ続け、外交儀礼を無視して日本を攻撃する一方だった。今後とも韓国は拉致問題解決の妨害者になりこそすれ、同伴者になりえる可能性はゼロである。
 このように、私の予想はすべて的中してきた。時間の経過と共に私の考えが正しかったことは証明されてきた。
 私は中国のみが唯一、拉致問題を解決することができると、当初から現在まで一貫して主張し続けてきた。最近になって政治家の中にもこれに気づく人が多くなってきた。
 しかも、私は中国が善意で動いてくれるなどと主張したことは一度もなかった。今までたくさんの政治家が北京に赴いて「解決をお願い」し続けたが、私は「そんなことをしても無駄だし、見返りもなしにお願いされても相手は迷惑だろう」と記した。私はあくまで「胡錦濤政権を拉致問題の解決に駆り立てるためには巨大な見返りを用意する必要がある」と一貫して主張し続けてきた。問題はその「見返り」の中身であろう。
 私はそれを「日本が中国に対してODA3兆円の債権を戦争賠償という形で放棄する」という、実に思い切ったものにした。これを実現するためには、賠償請求権の放棄を謳った過去の日中共同声明を発展解消し、新日中条約を結びなおす必要がある。
 この見返りを提示されれば、中国は必ずや全力で拉致問題の解決に動くであろう。なぜなら、単に中国という国家が経済的・政治的利益をえるだけでなく、派閥抗争に苦慮している胡錦濤主席個人もまた利益をえることができるからだ。よって、彼らが解決に乗り出す上でこの見返りが強力な動機付けとなることは疑いない。このように私は当初から中国指導部内の権力闘争まで利用する策略を持っていた。
 最近では、中国が北朝鮮に対して毎年、約2千億円もの経済援助をしていることが分かった。つまり、中国は北朝鮮の生命線を現実に握っているのだ。生かすも殺すも自由なのである。よって中国が強固に要求すれば、北朝鮮は断ることができない。かくして拉致問題は解決に向かう、と私は主張し続けてきた。
 私は、この解決策を実行することに政府の関係者がなぜ迷う必要があるのか、不思議なくらいである。「軍事力行使オプション」と「身代金支払いオプション」も解決策として論外とすれば、実際、もはや山田案以外に残されていないではないか。それに今までもくり返してきたが、この策には何よりも道理があり、戦略的利益があるのだ。
 本文でも触れたが、この策の実行によってわが国は中国人民の民心を掌握することができる。中国共産党も今では大衆世論に迎合せざるをえないのが現実であり、よってわが国は間接的に指導部も掌握することができるのだ。このことはまた、わが国とって最高の安全保障策ともなりえよう。親日=ジャパナイゼーションによって、われわれは中国の民主化の速度をすら速めることができる。詳しくは補足の『近未来の世界と日本の選択』を是非とも参照していただきたいが、わが国の未来のためには中国をハンドルすることが不可欠であり、そしてこの策こそがそれを可能とするのだ。また、国際社会は日本の決断と道徳的勇気を称え、わが国は中国の支持を受けて堂々「国連安保理常任理事国入り」という別の果実も手にすることができるだろう。これは政府・外務省の悲願でもあった。
 いったい、山田案を実行することに何をためらうことがあるだろうか。これは日本人拉致問題の解決策であると同時に、未来を切り開く国家戦略でもあるのだ。
 平和日本にとって拉致問題は戦後最大の国難に等しいが、山田案の存在は日本人自身のインテリジェンスでそれを解決できるチャンスのあることを意味している。
 だが、ここで楽観を戒めねばならないのは残念である。
 私がいかに拉致問題をめぐる状況を正しく予測していたとはいえ、山田案にも賞味期限があるのだ。これをどうしても指摘しなければならない。戦略は生きものである。つまり、生鮮食料と同じで「寿命」があるのだ。そしてそれが近づいているから、私はある意味、焦燥し、政府をプッシュしなければならないと考えている。
 山田案がもっとも効力を発揮するのは、米朝が国交を樹立する以前である。なぜなら、アメリカからも門戸を閉ざされている状況下でなおかつ中国からも拉致問題の解決を強行に迫られるという、この「挟撃感」「四面楚歌感」が北朝鮮指導部に「万事休す」との諦めを抱かせるのであって、仮に米朝が国交正常化して北朝鮮が国際貿易や米朝貿易に積極的に乗り出すことが現実に可能になれば、途端に効力が薄れるのは自明の理だからだ。
 私の想像では、米朝の水面下の交渉で、北朝鮮は中国に対する己の地政学的立場をアメリカに高く売りつけたに違いない。なにしろ、周辺情勢を睨んで宗主国を自在に乗り換えることに関しては、天与の才をもつ朝鮮民族のことである。どうやらアメリカもまた北朝鮮の戦略的価値を高く買っているようだ。よって米朝の国交樹立が確定すれば、北朝鮮は「仮に中国から経済援助を干されても、わが国はアメリカと手を結ぶことで生き残ることができる」とタカをくくるようになるだろう。すると中国が「拉致したすべての日本人を返せ、でなければ中朝国境を封鎖して援助も貿易も止めるぞ」と恫喝しても、北朝鮮はそれをはねつけることもできてしまう。
 よって、時間が切迫していると私は考えている。
 おそらく、この山田案がもっとも効果を発揮していたのは、米朝が激しく対立し、また胡錦濤閥が上海閥に対する優勢を確定していなかった2006年の前半だったと思われる。だが、今更このようなことをいっても無意味だ。要は、「賞味期限」内に実行しなければ意味がないのだ。
 この原稿を書いている07年10月の時点で、今年の12月か、来年の1月に福田総理が訪中することが決まっている。
 福田総理は、日中首脳会談の際、胡錦濤氏にお願いするだろう。「拉致問題の解決に是非とも中国の力を貸してほしい」と。
 実際、中国はドアから顔をのぞかせている。彼らに与える見返りとして総理が提示するであろうカードは、おそらく「環境ODA」ではないか。
 中国は、環境破壊をはじめとする深刻な内部矛盾を解消するためには、日本の経験と技術、資金などが必要だと考えている。日本側もまた中国の環境改善市場に目をつけ、京都議定書の削減目標値クリアの必要性などから、環境分野での対中協力を約束した。こうして日中はこの分野で結びついた。
 だが、これではエサとして弱い。なぜなら、しょせんは日本企業の金儲けのため、またそれを割り振る自民党の政治利権のためと見透かされているからだ。彼らを甘く見てはいけない。この程度では、中国もリスクを背負う腹をくくることができない。わが国は中国が必ず食らいつきたくなるような、大きなエサを思い切って差し出すべきだ。
 ここで改めて、日中を取り巻く状況を以下に整理してみよう。
1・中国はその国内・国際事情の変化から日本への接近を始めた。
2・中国は、日本の要望する「拉致問題の解決の協力」と「安保理常任理事国入り支持」の2点で、ドアから顔を覗かせた。
3・06年夏以降、中朝関係が急速に悪化しつつある。
4・朝鮮半島からの米軍撤退が既定路線となり、中国にとって北朝鮮の戦略的価値は消滅した。いや、米朝接近に伴い、むしろ今では邪魔者と化しつつある。
5・独裁者・金正日が老い、後継者も曖昧であることで、北朝鮮は専制国家としての脆さを露呈する時期に差し掛かっている。
6・「ピークオイル」と「ドル基軸通貨体制の動揺」により、アメリカの衰退は避けられず、世界の多極化時代が始まる(*『近未来の世界と日本の選択』を参照のこと)。
 最低、この6つのポイントを頭に入れたうえで政治決断を下すべきだろう。
 とするならば、私が本稿で提唱する「日中戦略的互恵外交」こそが、まさにベストの策とは言えないだろうか。
 よって私は、福田総理自らがこの策を採用する決断を下してほしいと願っている。
 わが国は来るべき日中首脳会談を踏まえ、今すぐにでも中国に対して、「過去の日中共同声明は時代に合わなくなった部分もあるのでこの際、発展解消し、両国で21世紀にふさわしい“新日中条約”を締結しようではありませんか」と打診すべきだ。
 中国側も「おやっ?」と身を乗り出してくるだろう。
 その新条約の焦点が「日本はODA3兆円の債権放棄をもって中国および中国人民に対して過去の戦争賠償を実施するものとする」という内容の条項と聞いて、中国側は仰天するに違いない。むろん、われわれは「ただし、中国が北朝鮮に囚われている日本人拉致被害者の生存者すべてを取り戻してくれたらの話ですが」と付け加える。
 このような提案は中国を全力で拉致問題の解決へと駆り立てる強力な動機付けとなるだろう。そして事実、胡錦濤主席はリスクを背負ってでも実行する決断を下すだろう。むろん中朝関係は悪化するが、すでに十分悪化しているのでそれは問題にはならない。中国の国内事情も彼の決断を後押しするはずだ。胡政権二期目における新陣容を見る限り、政治局常務委員9人中、上海閥が4人もいる。胡主席の立場は依然として微妙である。彼を支えているのは国民の支持といっても過言ではない。仮に日本から戦争賠償を勝ち取ったとなれば、胡主席は指導者としてのカリスマ性を高めて国民の支持をさらに獲得し、国内の権力基盤をついに磐石のものとすることができる。
 中国は北朝鮮の生命線を握っているので、それをネタにして強力に恫喝することができる。仮に北朝鮮が応じなかった場合、クーデターを使嗾して金正日政権そのものを転覆する方法をとるべきだ。「通常策」と「非常策」のどちらを選ぶかは、彼ら次第だ。
 こうして、中国が拉致問題を解決してみせれば、われわれもまた新日中条約を締結してODA3兆円の債権を戦争賠償として放棄する。これで第一段階と第二段階は終了だ。
 次に中国が日本の国連安保理常任理事国入りを支持すれば、日本もまた中国の環境問題改善に全面的に協力する。これが第三段階と第四段階だ。
 こうして日中が互いに“互恵外交”のキャッチボールを行う。小泉元総理の頃とは逆に今度は「正のボール」を投げあうのだ。これが「日中戦略的互恵外交」である。
 わが国はこのようして拉致問題を完全に解決し、また国連安保理の常任理国入りも果たすことができる。これは戦後史の中でも稀な歴史的外交成果といえよう。さらに福田総理がこの二大成果を勝ち取ってみせたことにより、国民の支持率もアップし、与党の総選挙での圧勝も約束されるだろう。
 だが、わが国が勝ち取る戦略的な国益に比べれば、選挙での成果など取るに足らない。わが国は中国人民の人心を掌握することができる。これは最高レベルの対中安全保障政策となるだろう。また、「親日」を通して中国に日本的な価値観を浸透させ、民主化を加速させることができる。われわれの狙いは、中国に親日=ジャパナイゼーションのムーブメントを起こし、最終的に中国を民主国家としてソフトランディングさせることである。
 中国が日本と価値観を共有する「自由中国」と化せば、従来の日米同盟による安全保障の枠内にあえて留まっている必要はない。永遠の二国間同盟など歴史上存在しない。日米同盟の耐用年数は意外なほど短いだろう。詳細は『近未来の世界と日本の選択』にゆずるが、これから石油は暴騰し、ドル基軸通貨体制は崩壊する。アメリカの衰退と多極化時代の到来は避けられない。石油をがぶ飲みするアメリカは21世紀の負け組となる。
 人類は新しい世界システムと新しい文明モデルを必要とする。その創造の先頭に立つのが日本である。わが国は中国をハンドルし、「自由中国」の誕生を促し、東アジア独自の経済圏・安保体制を構築し、もって一極となる道を選択するべきだ。西ではEUが一極を成すだろう。ユーラシア二強時代の到来である。東西は互いに協力し合い、そこから新しい世界システムを作っていかなければならない。何のためにわが国は国連安保理の常任理事国入りを果たすのか。それは内部から国連を壊すためである。新たな世界システムの構築のためには、主権国家の連合体である国連を発展解消することが欠かせない。
 すべての一歩は、この「日中戦略的互恵外交」を成功に導くことである。これにより将来の日中関係の礎が形作られるだけでなく、東アジア情勢もまた激変し、世界の勢力図すらも塗り替えていくだろう。
 最後に再び拉致問題という原点に立ちかえる。これだけは確実に言える。従来案で対処し続けるか、それとも山田案に方針転換するかで、日本の未来もまた大きく変わってくるだろう。歴史の転換点ほど、未来に対する戦略とイマジネーションが求められている時期はないのである。

(了)

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

1)どん底からようやく共通の利益を模索し始めた日中関係 中国向け1部(1/10) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

はじめに
 私が本稿で以下に詳述するのは、日中関係を劇的に改善させ、「戦略的互恵関係」に真に実りをもたらす「ある方法」である。1部が結論部分であり、2部が補完部分である。本稿の中には中国人にとって不快に感じられる記述、またその繰り返しが多々含まれるが、事の本質を論じる上で避けられないと考え、あえて正直で厳しい意見を率直に述べさせてもらった。
 最初に結論から述べる。仮にその方法が日中両国によって実行されれば、歴史の流れが一気に変わるだろう。日本と中国は真に「ウィンウィン」の関係となり、世界の勢力図に決定的な変化をもたらすことになる。そしてこの新しい日中関係を求心力として以降、東アジアが急速に一体化の道を歩むことになるだろう。この「新・東アジア体制」そのものを戦略的武器として使用するならば、第二次大戦後にアメリカが築き上げたヘゲモニーを完全に覆してしまう可能性すらある。
 私が以下に述べるのは、その新しい時代の扉を開く「ある方法」である。

――1部――

1)どん底からようやく共通の利益を模索し始めた日中関係
 まず日中関係の現状について簡単にまとめてみたい。
 国交樹立以降、最悪と評された日中両国の関係は、06年の9月から急速に改善へと向かった。これは日中双方の国内の政治状況が根本的に変化したことに拠る。
 日本では小泉政権に代わり、安倍政権が誕生した。安倍前総理が政権誕生後に真っ先に中国を訪問したことには、関係改善のメッセージの意味が含まれていた。また中国側としても党の中央委員会総会初日に日本の総理を北京に迎えたことは、日中関係重視の姿勢を内外に深く心象付けた形となり、日本国内からも好意的に受け止められた。
 安倍氏は対中強硬姿勢をとることがあったが、それは中国に対する憎悪から発していたわけではない。彼が根本的には親中派であったことはよく知られている。また政財界だけでなく、国民の側にも中国との関係をこれ以上悪化させるべきではないとする考えがあり、安倍前総理には関係改善の期待が高まった。1年という短い在任期間ではあったが、彼は中国との間に「戦略的互恵関係」を構築することで合意するという一つの道筋を残した。
 その安倍政権は07年9月をもって退陣し、後継として福田康夫氏が総理に就任した。彼の父親の福田赳夫氏は1976年12月から2年間、総理を務めた人物である。78年には鄧小平氏を日本に招き、日中平和友好条約を締結した。息子の康夫氏もその父親に劣らぬほどの親中家といわれ、日中両国の関係改善にさらに拍車がかかるものと予想される。
 一方、中国でも大きな変化があったと思われる(*1)。
 こうして日中関係は一応の底を打ったと考えられる。現在では、関係改善に関して中国側のほうがより熱心である。
 おそらく、胡錦濤政権が課題として掲げる政治目標に関わりがあると思われる。
 胡錦濤政権は「科学的発展観」を新たな指導理論として位置づけ、持続可能で社会各層の調和のとれた「和諧社会」の構築を目標として掲げている(*2)。具体的にはそれまでの経済成長一辺倒の路線を軌道修正し、都市と農村の貧富の格差を縮小し、社会保障を充実させ、公害の防止・省エネ技術の充実といった環境保護重視の姿勢を政策として打ち出している。江沢民時代の中国は鄧小平氏の指し示した路線をがむしゃらに突っ走るだけでよかったが、胡錦濤政権はそれを軌道修正し、このように国家が新たに進むべき道を指し示した。
 今は爆発的な経済成長を遂げている中国であるが、いずれ低成長時代へと移行する。人口増加も今から20年後にはピークに達し、それ以降は減少に転じて少子高齢化社会を迎えるという。中国はそれまでに深刻な環境汚染等の巨大な内部矛盾を解消し、成熟した近代国家へと変貌していなければならない。
 こういったプロセスは過去に日本が経験してきたことである。日本は国家として豊富な経験とノウハウを蓄積している。しかも、日本は同じ東アジアに属し、同じ人種であり、同じ漢字を使用する。中国にとって日本は、まことに手っ取り早いサンプルであろう。実際、中国の新しい社会経済政策の行き着く先は、見方によっては「日本」である。日本の政官界は中国からその過去の経験のデータの提出を各所で求められている。中国における最近の市場経済に対応した法制定・改正(会社法や証券法、独禁法や物権法など)も日本のそれを参考にしているそうだ。胡錦濤政権としては、日本の経験と技術を存分に利用し、投資の継続を促すためにも、反日よりも対日関係の改善に取り組んだほうが得策であろう。
 一方の日本でも、日中間の貿易総額が日米間のそれを上回ったことは国際環境の変化を示す一種の分水嶺と受け取られた。経済的には中国の内需を本格的に当て込む時期が到来しただけでなく、アメリカに極端に依存した従来の安全保障体制や外交、憲法などの戦後体制そのものが見直しの対象になり始めた。
 今や日中二国間関係とそれを取り巻く世界システムそのものが、何か大きな地殻変動を起こしつつあることを、多くの人々が本能的に感じている。日中関係が06年で底を打ち、急速に歩み寄りを始めたのも、その潮流における必然ではないだろうか。
 こういった日中の急速な関係改善を象徴するのが、両国が合意に至った「戦略的互恵関係」の構築であろう。日本側以上に中国側がこれに力を入れている感があり、中国指導部は「戦略的互恵関係の構築を通じて、平和共存・代々友好・互恵協力・共同発展の目標を実現する」と熱心にうたっている。これはかつての胡耀邦元総書記の「四原則」の再来を思わせ、胡錦濤現総書記の並々ならぬ意気込みを感じさせる。
 この「16字の方針」のように、アジアの「二強」が共存共栄の道を歩みだしたことは、両国にとってもまたアジアや世界全体にとっても素晴らしいことに違いない。

*1……以下は、日本で報道され、一般的に信じられているストーリーである。
 安倍政権が誕生したのと同じ頃、中国では水面下で続いていた胡錦濤閥と上海閥との権力闘争の一応の決着を象徴する出来事が起こった。上海市党委書記の解任劇は、軍権(中央軍事委員会主席)を掌握してからもなお上海閥からの抵抗を受けていた胡錦濤主席が名実共に真のガバナーとしての権威を確立したことを中国内外へ示す絶好のデモンストレーションとなった。
 真実はどうあれ、日本では江沢民氏こそが反日政策の張本人と見なされており、江氏が影響力を持つ間は、胡錦濤氏も簡単には反日を緩和することができないと観測されてきた。胡錦濤氏の先輩である胡耀邦元総書記が政敵から「親日派=売国的」として指弾され、失脚させられた実例も過去にある。かつて中曽根康弘首相が靖国参拝の中止を決断したのも、胡耀邦氏が政敵に揚げ足を取られないようにする配慮であったという。
 ただ、胡錦濤政権の二期目の陣容を見る限り、上海閥は4名であり、江沢民氏と江氏の腹心は依然として大きな力をもっていると思われる。

*2……興味深いことに、中国共産党はこれを「マルクス主義の進化形」と説明している。だが、そもそも国家を諸階級の和解の場とすることはブルジョワ的であるとしてマルクス主義の否定するところである。つまり、同党はそれまでの「階級闘争」というマルクス史観に基づく概念を事実上放棄したが、あくまで建前・看板としてはマルクス主義を外せないということだ。胡主席の打ち出した「科学的発展観」という理念も、言外とはいえ、平和的・安定的で持続可能な近代国家を建設するためには、特定の政治イデオロギーではなく、あくまで自然科学と社会科学の両分野における科学的頭脳に基づかねばならないという中国指導部の内観をニュアンスしている。
 中国において、今やマルクス主義はただの飾りになった。だが、それが正しい道なのである。なぜなら、科学とマルクス主義は根本的には両立しないからだ。マルクス主義は自然科学・経済学・政治学・歴史学の各分野で敗退した非科学的な思想だ。今では「科学的社会主義」をうまく自称することでドグマの普及を図った“疑似科学”であったというのが定説である。
 マルクス主義は元来、19世紀の資本主義国家の実情を踏まえて、労働者階級を解放するための学説として発表された。彼は「資本主義が究極に発達すると少数の独占資本によって国家が支配される。この体制を暴力革命によって打倒すれば、労働者の政権を打ち立てることができる」と考え、プロレタリアは私的所有制をなくすことによって解放されると説いた。だが、現代ではこんな学説はナンセンスな空理空論である。金融制度や商法などの発達により、今では一労働者が努力次第で資本家になることも、個人株主として企業オーナーの一員に加わることも可能になった。マルクスは富を公平に分配するシステムに執着したが、国家人民が豊かになるためにはそれだけでは不十分であり、「富を生む」装置もまた不可欠であることに気が付かなかった。そしてそれこそが資本主義に根ざした私営企業の活動であることは、第二次大戦後に分裂した東西両陣営の社会格差によって実証されている。
 なによりも、中国それ自体とマルクス主義は相容れない。なぜなら、同主義の本質はインターナショナリズムだからである。これは「労働者に祖国はない。国家というものは支配階級の道具であるから、最終的に消滅させなくてはならない」という考え方だ。つまり、本来、愛国主義などはマルクス主義とは正反対の概念であり、このような思想に従うならば、中国人は最終的に民族主義を捨て、中国固有のナショナルなものを排除して「ソビエト人」と化さねばならないのである。
 中国におけるマルクス主義は、その出発からローカライズが行き過ぎた感がある。なぜなら、マルクスの指したプロレタリアートとは本来は工場労働者のことであり、よってマルクス主義とは、彼らを搾取する大資本家との関係性、またそれを基礎として展開される政治経済の学説だったからだ。だが、かつての中国にはマルクスのいう意味での大資本家も労働者もほとんど存在せず、代わって地主と農民の関係に置き換わってしまった(皮肉なことに「資本家に搾取される工場労働者」層が誕生したのは改革開放以降である)。つまり、元来、マルクス主義は中国の実情や歴史を反映しない思想だったといえる。古くは司馬遷の『史記』にビジネスの成功者の列伝が描かれていたり、「清明上河図」に宋・開封の繁栄が描かれていたりするように、自由な経済こそが本来の中国社会の伝統なのである。現代中国建国初期の異常な混乱は、その本来の中国とは相容れない異質な思想を国家原理としてしまったがために、社会全体が一種の消化不良を起こしてしまった結果だとも考えられる。そういう意味において、マルクス主義を捨てることは中国が本来の中国に戻るための軌道修正なのである。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

2)日本の民意は「戦略的互恵関係」に完全にそっぽを向いている 中国向け1部(2/10) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

2)日本の民意は「戦略的互恵関係」に完全にそっぽを向いている
 ただし、両国指導部がこの「戦略的互恵関係」を目標として掲げたところで、これが本当に具体的な中身のある成果をあげていくか否かは、別問題である。
 なぜなら、「民意」の存在があるからだ。日本ではとくにそうであり、中国でも今では政治指導部がこれを無視することは不可能になりつつある。中国政府はこの戦略的互恵関係の構築のために日本の政治家と有識者に盛んに働きかけているが、はっきり言ってそれだけでは真に日本を動かすことはできない。
 日本の政治システムでは、時の政権は選挙で国民の審判を仰がねばならない。政権党といえども民意に反することをすれば、07年7月の参議院選挙のようにたちまち議会で過半数を割る。今回はたまたまサブ的存在の参議院での与党敗退であったが、次回はメインである衆議院選挙である。民意の反感を買えば、時の政権が権力の座を追われる可能性は十分にある。
 巷間では「中国を叩けば叩くほど得票に繋がる」という現象が一部で見られる。タカ派として知られる石原慎太郎東京都知事が人気を博している理由の一つは中国に対する強硬姿勢であり、そのことが中国を嫌悪し始めた過半数の日本人から“良くぞ言った”という風に評価されているのだ。出版界でも「親中」ものは完全に姿を消し、多くが「嫌中」「恐中」ものに取って代わられた。そのほうが売れる(=大衆のニーズがある)からである。
 先日の参院選ではたまたま外交・安全保障が争点にならなかったが、もし次の総選挙で争点になった場合、「中国と仲良くしましょう、日中友好バンザイ」と訴えて得票に繋がることはまずありえないだろう。その逆のケースならば大いにありえる。
 日本は民意が醸しだす「空気」によって動く国である。そして現在、日本人の民意は完全に「反中」なのである。アンケート調査の結果を見ると、日本人の7割は中国を嫌悪している。さらに私は日本人として断言するが、この数値は国民の対中感情を一気に好転させるような何かドラスティックな出来事がない限り、基本的に変化はしない。
 このような民意が現実の対中政策に影響を与えた最近の事例として、対中ODAにおけるソフトローンの中止が上げられる。これが2008年をもって終了するのも、中国を援助することに対する厳しい世論を政治サイドが受けてのことである。
 以上のように、日本の対中民意が厳しいため、日本の対中政策もまた予断を許さないのが現状である。それゆえ中国政府は、「日本の最高クラスの政治家が戦略的互恵関係の構築を約束したのだから何とかなるし、第一、日本人民の間に中日友好の雰囲気を作るのは彼らの責任である」などという考えを完全に捨て去るべきだ。なぜなら、日本は相対的に見て国家権力が世界でもっとも弱い国だからである。少なくともアジア内ではそうだ。最高権力クラスの人物がたいした理由もなくマスメディアに気分的にバッシングされる。そんな国家の政治家が小手先の世論操作を行う程度では、日本人の対中感情は絶対に好転しない。政府がいくら「相互理解及び友好的感情を増進」するために尽力しても、民間のマスメディアはこれからも勝手に「反中」の拡大生産を続け、親中的な政策や政治家を激しくバッシングしていくだろう。日本の政官界にはこの流れをコントロールする権力はない。また、政治家は世論に対して基本的に「風見鶏」であり、世論の流れ次第では以前の方針をくるりとひるがえすことも厭わない。
 よって、中国がいくら日本の政治サイドや有識者、新聞メディアなどに働きかけたところで、日本の民意が中国にとって不利に働き続けるという事実はこの先も変わらないのだ。
 これが今の日本の現実である。実際、日本人は「戦略的互恵関係」に対して極めて冷淡である。日本人の目から見れば、それまで反日に狂奔していた中国が突如として“友好”に転じたように映っている。この一貫性のなさが日本人の不信感を逆に掻き立てている。よって「戦略的互恵関係」なるものの正体は中国が日本から利益を引き出すための策略であると同時に、強化された日米同盟を分断する計でもあり、それ故に中国側は熱心なのであると憶測する向きが強い。日本国民の間には「“協力”とか“互恵”などと称しているが、実体は従来と同じで、わが国が中国に対して一方的に与えるだけの関係ではないか」という不信感が根強い。
 1983年11月、胡耀邦総書記が訪日し、日本の国会で始めて演説した。当時、胡耀邦氏と中曽根康弘氏は「平和友好 平等互恵 長期安定 相互信頼」という“四原則”に合意した。今日の戦略的互恵関係がうたう「16字の方針」は、まるでこの四原則の字面を組み替えただけである。おそらく、「胡耀邦時代のようにまた日中は仲良くしましょう」というメッセージなのだろう。だが、当時と今日では日本国内の雰囲気は正反対だ。当時の日本は中国に対して極めて友好的だった。しかし、現在の日本人は「日中友好」なるものに対して完全に冷め切っている。なにしろ、72年の国交樹立以来、中国が日本に対して具体的に何か恩恵を与えてくれたことは一度もないと日本人は考えており(記憶にあるは中国からパンダが送られたことくらいだ)、今では「われわれは日中友好という名の詐欺に騙されていたお人好しだったのではないか」という思いすら強くなっている。国家間の関係はギブ・アンド・テイクで成り立つが、中国はギブばかりで日本に対して具体的にテイクをしたことがなく、それどころか日本に対して「仇」しか返してこなかったというのが今の日本での定説である。
 むろん、中国側は「それは誤解だ」と怒りを伴って反論するであろう。だが、問題は、道理が日中どちらにあれ、日本の民意がそう信じ、かくも中国に対して厳しいという現実なのである。なぜなら、日本では最終的に民意こそが国の方針を決めるからだ。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

3)環境問題では中国叩きが加速する 中国向け1部(3/10) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

3)環境問題では中国叩きが加速する
 07年4月の温首相来日の際、日中首脳会談が行われ、両国は以下の共通認識に達したとの日中共同プレス発表が行われた(以下「戦略的互恵関係の基本的な内容」)。
 1)平和的発展を相互に支持し、政治面の相互信頼を増進。各々の政策の透明性に努力。
 2)エネルギー、環境、金融、情報通信技術、知的財産権保護等互恵協力を深化させる。
 3)防衛分野の対話及び交流を強化し、共に地域の安定に向け力を尽くす。
 4)相互理解及び友好的感情を増進。青少年、メディア等の交流、文化交流を強化する。
 5)朝鮮半島、国連改革、東アジア地域協力等、地域及び地球規模の課題に共に対応。
 上記を見る限り、2項以外は具体性に欠け、とりたてて中身がない。1項の「政治面の相互信頼を増進」とか、3項の「共に地域の安定に向け力を尽くす」とか、4項の「相互理解及び友好的感情を増進」とか、5項の「地域及び地球規模の課題に共に対応」などいう文言は、はっきり言えば当たり前の抽象的なことが書き連ねてあるに過ぎず、別に「戦略的互恵」を銘打たなくても、通常の国家間で普通に行われていることである。
 おそらく、中国側にしてみれば、実質的利益を得られる2項以外は「オマケ」みたいなものかもしれない。2項は「エネルギー、環境、金融、情報通信技術、知的財産権保護」等で互恵協力を深化させるとうたうが、これらの分野で中国が日本に対して具体的に何を協力するのだろうか。「情報通信技術」を除いた残る4つは、中国にとっての“危機的要素”ばかりではないだろうか。
 相互信頼どころか、日本では環境問題での中国不審・中国バッシングまで始まっている。そしてそれは今後ますます強まっていくのは確実である。
 世界最悪の大気汚染、全国の3分の1に及ぶ酸性雨、7割に及ぶ河川の汚染、2割に及ぶ土漠とさらなる進行…このように中国の急激な経済発展は環境を犠牲にすることで達成されてきた面がある。今ではその負の遺産が、洪水の多発や土壌・地下水の汚染、渇水、黄砂、公害病による死傷者の増加といった形で社会と人民に襲い掛かっている。中国指導部は強い危機感をもち、環境保護に力を入れ、持続可能性とエネルギー利用効率を高めようとしている。
 問題はそれが日本にまで悪影響を及ぼしていることだ。中国の環境破壊は、日本に対して酸性雨、光化学スモッグ、黄砂、大量の漂着ゴミ、海洋汚染といった越境汚染をもたらしている。中国はこの越境汚染被害を認めていない。仮に率直に認めて、「日本の皆さんに迷惑をかけて大変申し訳ない」と一言でも謝罪すれば、日本人の対中感情も大きく好転するだろうが、そういった誠意は期待できない。日本の環境機関は、今後、この越境汚染がますます酷くなると警告している。よって、日本人は実体験から中国に対する非難を強めていくだろう。
 中国はまた国際的な地球温暖化対策にも不熱心だ。これがEUと日本を苛立たせている。日本は70年代の石油ショック以来、省エネを推進してきたが、さらに地球環境のために京都会議を主催し、自らに1990年度比で6%の温室効果ガスの削減義務を課した。だが、ドイツを抜いてGDP3兆ドルの世界第3位の経済大国になった中国は、都合のよい時のみ「途上国」を自称し、自らに何の削減義務も課していない。そして自国の環境問題を改善するため、他国の排出権を買い取る必要に迫られた日本を利用し、排出権販売によるボロ儲けと日本の省エネ技術をタダで手に入れるという一石二鳥の芸当をやってのけている。このことに関して余分な出費を強いられている日本企業からも「あまりに理不尽だ」との怒声があがっている。
 むろん、このような見方に対して、当然、中国側としては大いに反論もあろう。たとえば、「それまで炭酸ガスを散々排出して今日の温暖化の危機を招いた責任は先進諸国にある。そのような国々が、地球環境の保護を名目にわれわれ後発組の経済発展の機会を奪うのはアンフェアではないか」と。
 まったくその通りである。事実、インドなどもこのような主張をしている。よって、私個人は日本が中国の環境問題改善に協力することに大いに賛成である。
 実際、日本にとっても中国への同協力は国益に繋がる。日本は温室効果ガスの削減目標値を達成するために中国の排出権を買い取る必要があるだけでなく、中国の環境改善市場それ自体にも注目している。日本の環境庁は市場規模を12兆円と推測している。環境改善装置を開発しているメーカーはその市場への参入を目論んでいる。これが自国の環境改善を意図する中国の思惑と一致し、両国の協力体制が始まった。4月の温首相来日時における環境協力の共同声明で、日本が中国の環境問題改善のために資金や公害防止・省エネの技術を供与することもほぼ決まった。しかも、日本政府は対中環境ODAに代わる新たな財源として、世界的な気象変動に対する新たな途上国支援の資金メカニズムを利用することを考えている。この分野で日中の協力が進み始めたことは、両国にとってプラスといえる。
 だが、こういったハイレベルの思惑とはまったく別次元なのが、一般の日本人の民意である。日本人は中国への反感をさらに高めていくだろう。なぜなら、中国からの越境汚染が今後とも悪化し、日本の大気が汚染され、森林が枯れ、農作物に被害が出始めると予想されているからだ。そういった皮膚感覚の体験から反中感情が激しさを増すことは避けられない。
 期を同じくして、欧米での中国バッシングも年々激しくなっている。現在の中国人は自国の経済発展に自信を持つあまり、ややもすると「国際社会の仲間入りを果たすことで中国の発展の道も開かれた」という事実を忘れがちなのではないか。「中国は自分さえ良ければ他者はどうでもいいと考えているエゴイスティックな国だ」と欧米や日本から受け取られることは、他ならぬ中国自身にとって一番のマイナスである。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

4)中国政府はかつて日本人の人心を掴んだ周恩来氏に学べ 中国向け1部(4/10) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

4)中国政府はかつて日本人の人心を掴んだ周恩来氏に学べ
 以上のように、日本の民意は「戦略的互恵関係」に極めて冷たく、環境問題では今後ますます中国非難を強めようとしている。
 だが、日本の民意が現実の対中政策に悪影響を与えた事例が対中ODAの見直しならば、過去にそれが好影響を与えた事例もあることを思い起こす必要がある。
 1972年の日中共同声明以降、思えば日本はなぜかくも好意的に中国の社会発展と経済建設に協力したのだろうか。
 実はそこには周恩来というひとりの大人物の存在が深く関係しているのである。
 おそらく当時、中国側としては意図したことではなかったと思うが、日本人はテレビの画面を通して周恩来首相の振る舞いに強く印象付けられた。「人に酔う」という言葉があるが、日本人は周氏の人柄に酔ってしまったのである。最近の研究では、実際の周恩来氏は毛沢東主席から年中苛められ、その人柄に関してもいろいろな説があるようだが、それが虚像であれ何であれ、とにかく日本国民が周氏の人物像に心酔したという事実こそが決定的に重要なのである。なぜなら、その民意・国論・空気の後押しがあったからこそ、当時の日本の政治サイドもイケイケどんどんで中国に協力を行うことができたからだ。
 つまり、改革開放経済政策が順調なスタートを切ることができたのは、実に周恩来首相が日本人の人心をうまく掴むことに成功したからだとも言えるのである。このような分析や説が中国に存在するか否かは私の知るところではないが、これはまぎれもなく真実である。ゆえに今日の中国の目覚しい経済的成功は、「黒猫白猫論」「南巡講話」の鄧小平氏と並んで、周恩来氏が残した遺産でもあるといえよう(ちなみに日本では鄧小平氏のイメージも良かった)。
 つまり、中国が本当に「16字の方針」を実現し、戦略的互恵関係から何らかの国益を得たいと望むなら、かつての周恩来首相の成功に学ぶべきなのである。つまり、誰よりも日本国民の人心を掴むことである。そうすれば政治家・有識者も勝手に追随する。
 ちなみに、中国側にしてみれば受け入れがたい話かもしれないが、周恩来氏の成功にまったく届かなかった事例が今年4月に見受けられた。温家宝首相の来日である。中国首相の来日は実に六年半ぶりであるにもかかわらず、日本人の反応は極めて冷淡であった。中国側としては「親日派・胡耀邦氏の再来」を印象付け、「また当時のように日中蜜月時代を築きましょう」という意味を込めたのだろうが、あいにくそのメッセージは日本人には届かなかった。
 結論から言えば、日本人に与えたインパクトはゼロであり、周恩来氏の千分の一の印象もなかった。今では大半の日本人はそのようなイベントがあったことすら忘れているし、温氏の顔すらよく覚えていない。

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5)真に戦略的互恵関係を築くためには「大衆へのアピール」が不可欠 中国向け1部(5/10) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

5)真に戦略的互恵関係を築くためには「大衆へのアピール」が不可欠
 今や日本人は親中どころか、年を追うごとに中国の粗探しをしては嫌悪を募らせている。メディアも日々「反中」を拡大生産している。今年07年における日本の中国報道の特徴として、テレビまでが中国を「ネタ」扱いして、粗探しを始めたということが挙げられる。
 そして日本はそのような「国民の空気」で動く国である。中国に「甘い顔」をすると、政治サイドも怒れる市民の突き上げを食らうようになった。日本で大衆からもっとも非難され、嘲笑されている政治家が「媚中派」と侮蔑されている河野洋平氏である事実、また中国と激しく対立した小泉元総理が未だに国民の人気ナンバー1である事実を見ても、現在の日本国民がいかに中国を嫌っているかがお分かりいただけるだろう。
 日本の国論がこのように急速に右傾化した最大の原因は、実は北朝鮮による日本人拉致問題である。この事件は完全に日本の「眠れる愛国」を呼び覚ました。しかも、日本人の怒りが沸点に達していたちょうどその頃の05年3月、中国で「日本の国連安保理常任理事国入り反対」の大規模な反日デモが行われた。
 中国の対日分析が甘かったのか、これは最悪のタイミングであった。日本大使館や領事館、日本商店などに対して行われた投石や破壊行為はくり返しテレビで放映され、日本人は国民レベルで中国に対して強い憤りと疑いをもった。胡錦濤政権の面子潰しのために上海閥がデモを使嗾したとも噂されているが、いずれにせよ当局による操作が疑われているとはいえ大衆感情抜きには説明できない現象でもあった。
 日本では、あのデモで乱暴狼藉に及んでいたのはかつての五四運動に参加した本物の愛国青年たちではなく、日本に対する悪しき誤解と偏見に基づいてマスヒステリーを起こした青年たちと考えられている。実際、彼ら「憤青」たちが日本の同常任理事国入り反対の根拠とした中には、「日本は戦争被害国への謝罪と賠償を拒否している」「日本は歴史教科書を改ざんし、侵略の歴史を教えていない」といった、事実に基づかない典型的ともいえる対日偏見や先入観が大きな部分を占めていた。
 日本では、相手を攻撃するために事実を無視する類いの人間は、科学的思考や知的誠実さが欠如している一種の人格破綻者と見なされ、強く軽蔑される。しかも、デモ参加者の中には明らかに単にガス抜きしたいがために暴力的な悪ふざけに及んだ者も少なくなかったと考えられ、中国政府当局がこういった“愛国青年”たちの“人民感情”に乗じたり、逆に引き締めたりに忙しい様子は、実に近代法治国家にあるまじき光景として、日本をはじめ先進各国では冷笑をもって受け止められたのが事実だ。
 中国政府は今や一般の日本人が中国に対してどのような感情を抱いているかが、まるで分かっていない。日本人は「感情を表に出さない」「我慢を重ねる」ことを美徳とするため表面に現れないだけで、本当は水面下では中国に対する怒りがマグマのように堆積している。その限界点を超えた時、日本人は突然爆発する。これは“日本人病”だから治らない。
 日本の現状はこのようなものであるため、中国がいくら「日中友好・戦略的互恵」をうたったところで、日本人が「何を今さら」と冷め切っている理由がお分かりであろう。世論は中国に対する資金や技術面での支援に対して厳しい。「われわれがいくら援助・協力をしたところで、かつてのように中国は言葉だけで適当に感謝を表明するに留まり、国内の不満や矛盾が大きくなると結局は反日憎悪を高めて人民の怨嗟の的を共産党から日本へと反らそうとするのではないか」と、ほとんど確信的に疑っている。
 この点が70年代や80年代と大きく異なる点である。当時は誰よりも日本の国民自身が日中友好を支持しており、政治サイドはその空気の後押しを受けていたにすぎない。
 日本では、最終的にこのような人民の空気こそが物事を決する。まず中国側はこの現実を真摯に直視すべきである。そうすれば中国の友好的姿勢を印象付けるべき相手が日本の政治家や有識者ではなく、一般大衆であることがよく分かるはずだ。真に戦略的互恵関係を築くためには、中国側は日本国民に対して直接、目に見えるアピールを行うべきだ。中国政府はこの種のパブリック・リレーションズを今後の対日政策の中核とすべきである。

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6)日本の民意を一気に「親中」へと高める秘策 中国向け1部(6/10) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

6)日本の民意を一気に「親中」へと高める秘策
 だが、問題はそのアピールの方法である。かつての周恩来氏のように日本人の人心を鷲づかみにするためには、直接、人民にアピールできる何か「思い切った策」を実行することが不可欠だ。中身のない「日中友好」という言葉が踊っているだけでは、もはや日本人の対中感情の悪化を止めることはできない。
 そこで、私は中国政府に次の提案をしたい。
 日本人に最高レベルのアピールと化し、戦略的互恵関係を一気に推進するための起爆剤となる方法こそ、中国が北朝鮮による日本人拉致問題を解決してみせることである、と。私はひとりの日本人として断言するが、これこそが日本人の人心を掴むためにもっとも効果的で、かつ手っ取り早い方法なのである。
 しかも、日本国民は、もはや数名の拉致被害者が北朝鮮から帰国する程度では決して満足しなくなっている。北朝鮮の工作員よって拉致されたと思われる日本人は百名以上いると考えられている。その生存者全員を取り返さないことには、日本の民意は絶対に満足しない。そして後述するが、それをやり遂げてみせることのできる唯一の国こそが中国なのである。中国としては、これを対日カードとしない手はない。中国は毎年、北朝鮮に莫大な経済援助をしている。中国は現実に北朝鮮の生命線を握っており、それゆえ彼らを恫喝することができる。
 中国が実際に拉致問題を解決してみせた場合、日本の世論はどう変化するだろうか。間違いなく国民は熱狂し、一気に親中へと雪崩打つだろう。しかも、日本人としてあまり言いたくはないが、これは中国にとって「日米同盟分断策」ともなりえる可能性がある。
 07年1月のベルリンでの米朝会談以降、アメリカがこの問題で日本を裏切ったことは、ほぼ明白になった。仮に拉致問題の解決抜きにアメリカが北朝鮮をテロ支援国家の指定から外し、日本の頭越しに米朝国交を回復すれば、日米同盟は決定的な打撃を受けると観測されている。なぜなら、日本の民意が完全にアメリカから離反するからだ。しがって、アメリカに代わって中国がその問題を解決してみせれば、なおのこと中国に対する信頼度が相対的に急上昇するのは確実なのである。

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7)日本政府もまた中国人民に対して与えよ 中国向け1部(7/10) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

7)日本政府もまた中国人民に対して与えよ
 だが、胡錦濤政権としても、一方的に日本が利益を受けていると国内的に受け取られることは政治的に避けなければならない。そういった「親日売国」の揚げ足を取ろうとする対抗勢力が未だ権力内部にも潜んでいるし、近年では「憤青」と呼ばれるインターネットを介した巨大な愛国大衆世論も存在し、中国指導部としてもそのような民意を無視できない。
 つまり、中国側の日本に対する姿勢とまったく同じ原則が、日本側の中国に対するそれにも当てはまるのである。
 中国でも事実上「人民の空気」が物事を決するようになった。まず日本政府は、この現実を真摯に直視すべきである。そうすれば、中国の政治家や有識者だけでなく、何はともあれ一般の中国人民に対して友好のメッセージを送らなければならないことが分かるはずだ。
 よって、日本もまた中国とくに一般の中国人民を喜ばせる「何か大きなプレゼント」を与えるべきである。このように互いに与えてこそ真の「互恵」であろう。
 私は、中国が日本に対して憤り、見返りを要求する正当な権利があることを重々、承知している。中国の対日観の根底にあるものは、やはり過去の戦争である。しかもこれは中国人自身も気づいていないことかもしれないが、日本帝国から侵略を受け、莫大な被害を受けた史実もさることながら、実はその後に「復讐を果たせなかった」という想いこそが中国と人民を真に呪縛するものの正体ではないか。
 ここがロシアと異なる点である。旧ソ連はナチスドイツの侵略によって当時の中国以上の被害を受けたが、その後にソ連軍が反抗に転じ、ベルリンを攻め落とした。彼らは復讐を遂げたのである。それゆえに今日のロシア人は、ロシアに対してほとんど謝罪も賠償もしていないドイツに対してかくも好意的なのである。だが、これとは対照的に、中国軍は東京を攻め落とすことができなかった。
 抗日戦争なるものの真の実態は、中国人民の自尊心を傷つけるに十分である。1937年の日中戦争当初、中国軍は300万の陸軍を擁していたが、中国に派兵された日本軍は最大でも年間85万の兵力であった。戦争の間、共産党は雌伏し、三国志的発想で国民党と日本を戦わせた。日中戦争の後半には、国民党もまたアメリカと日本を戦わせ、大規模な戦闘を避けた。そしてアメリカが日本を降伏せしめたことにより、日本の軍参謀本部から中国の広大な地域を支配していた現地日本軍に対して停戦が命じられたのである。
 以上が日中戦争の本質である。中国は日本に対して復讐を遂げられなかった。その上、国交樹立時に「戦争賠償の請求を放棄する」という譲歩までした。中国人としては、身を切る想いであったに違いない。しかも、その道徳的英断が日本において正当に評価されているならまだしも、どうやら日本人はさして恩に感じている様子ではないらしいと映る…これでは中国人民が心の底に対日不満を鬱積させるのは当然であろう。
 日本人として言わせてもらうと、日本側の過去の戦争に対する反省および中国に対する贖罪行為に関しては、中国側にも理解不十分な点が多いが、いずれにしても以上の経緯から生じた対日心理の葛藤が現在の中国にも尾を引いていることは間違いない。よって、日本側としては、この部分にこそメスを入れるべきである。
 詳細は後述するが、戦後の日中関係が誤った原因、すなわち日中の最初のボタンの掛け違いは72年の日中共同声明における賠償放棄条項にあると言えるのではないか。日中共同声明の第5項は次のようにうたっている。
「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」
 現在、この第5項をもって、日本側(の最高裁)は「中国は民間人の請求権も放棄した」と判断し、中国が是とする民間人の戦争被害者による賠償請求訴訟まで棄却している。一般の中国人民としては、とうてい納得のいくものではないだろう。
 このような解決の仕方は、今ではマイナスにマイナスを足してしまったものとしか評価できない。それゆえ、私は以下のように提案するのである。
 日本が代わりに中国に対して与えるべきもの――それこそが過去の日中共同声明等を発展解消した「21世紀の新日中条約の締結」である。具体的には、日中関係の過ちの根源である問題の第5項を無くし、その新条約に「日本はODA3兆円の債権放棄をもって中国および中国人民に対して過去の戦争賠償を実施するものとする」という新たな条項を追加することである。私は「国家百年の計」の観点からも、日本国はこれを実行すべきであると信ずる。
 中国サイドは、ここで想像してほしい。この新日中条約が締結された時の国内でのインパクトを。全中国人民は歓喜するだろう。
 胡錦濤国家主席は、「日本から戦争賠償を勝ち取った」として全中国の民心を獲得し、カリスマ性を上げ、結果として自らの権力基盤を絶対不動のものとすることができるだろう。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
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8)日中新時代をもたらす戦略的互恵外交・その1 中国向け1部(8/10) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

8)日中新時代をもたらす戦略的互恵外交・その1
 それゆえ、私は以上のような、互いの人民感情を劇的に好転させることを目的とした日中間の大きな政治的取引を「戦略的互恵外交」を命名し、以下に提案する。
 
・ 第一段階……まず初めに中国が日本に対して「良いボール」を投げる。それは中国が北朝鮮に囚われている日本人拉致被害者とその家族全員を救い出すことである。これは誰よりも日本国民に対するアピールとなる。できれば胡錦濤国家主席が彼ら生存者を引き連れて、特別機で来日する。これにより胡錦濤氏は一躍、日本国民の英雄と化すだろう。日本人は皆、彼を「恩人」と称えることになる。
・ 第二段階……次は、前回の返礼の意味をこめ、日本が中国に対して「良いボール」を投げる。日本の総理が北京を訪れ、過去の日中共同声明等を発展解消した「新日中条約」を締結する。この21世紀の条約には新しい条項が追加されている。それが「日本はODA3兆円の債権放棄をもって中国および中国人民に対して過去の戦争賠償を実施するものとする」という項目である。これは何よりも中国人民に対する直接的なアピールとなるだろう。そして日中両国の間に長年、楔として横たわっていた「歴史問題」はついに解決する。
 
 ここで上記について解説する。
 このように「ODA3兆円の債権放棄」という形で中国が日本から「戦争賠償」を獲得することと、日本が中国の手を借りて「北朝鮮による日本人拉致問題」を解決することは、交換条件になっている。どちらか一方だけが利益を得るのではなく、日中両国がまるでキャッチボールのように「互いに相手のためになる外交(互恵外交)」を行うことが成功の要である。
 もっとも、日本が上記のような外交を実行するためには、先んず国民の理解が得られなければならない。日本には国会議員の選挙があり、「世論」というものが決定的に重要である。つまり、政府が中国に対して賠償を実行することを国民が許さなくてはならない。それゆえ、まず初めに胡錦濤国家主席が日本国内で恩人視・英雄視される出来事が必要であり、それこそが胡主席の尽力による日本人拉致問題の解決なのである。そうすれば、親中で熱狂した日本の世論は、中国のためにODAの債権を放棄することに賛成し、政治家も安心して次の選挙に備えることができるだろう。
 なにしろ日本人は「空気」に従う民族である。
 またこの際、日中友好の「空気」また「ムード」を両国で盛り上げるために、私はさらに以下のような政治的演出の実行を提唱したい。
 それは来日した胡錦濤国家主席に、皇居で天皇皇后両陛下と並んでもらい、日本人が万歳三唱する熱烈歓迎を受けていただく、というものである。そして、その映像を日中両国全土さらには全世界に向かって放映するのだ。この演出により、日中関係が根幹から変化した事実を世界に印象付けられる。胡主席は日本国内で英雄と化すだけでなく、中国内とその他の世界においても名声を獲得することができるだろう。
 中国側としては、純粋に人道上の問題を解決してみせたことによって胡錦濤国家主席が得る政治的利益にも思いを馳せるべきである。なぜなら、中国は人権問題で国際社会からいつも叩かれている。これは格好の汚名挽回の材料ともなるし、また胡主席が世界的な指導者・名君であることを世界にアピールできる材料ともなる。
 むろん、胡錦濤主席の権威は、第二段階の「新日中条約」調印により、さらに高まることになる。毛沢東・周恩来の両氏は、台湾と争っていた国家正統性の問題に拘泥するあまり、72年の日中共同声明において、日本に対する賠償請求を放棄するという判断を下した。この最初のボタンの掛け違いにより日中両国の歯車は常にかみ合わなくなった。そして重要なことは、今日この決断が中国人民から「歴史的なミス」との烙印を押されているという事実である。よって、もし胡錦濤主席がこれを正せば、その権威と名声は、毛・周両氏に並ぶ歴史的なものとなるだろう。
 かくして、政権第二期のスタートとほぼ同時に、胡錦濤政権は中国内での統治権威の高揚と完全なる権力維持に成功することができるのだ。
 いずれにせよ、以上の「戦略的互恵外交」を実行すれば、日本側は拉致問題を解決することができ、また中国側は戦争賠償の獲得という政治的・金銭的利益を得ることができる。日中双方がともに利益を得ることができるのだ。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
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