SSブログ

10・戦略的互恵外交は戦後レジームを終わらせる 日本向け1部(10/10) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

10・戦略的互恵外交は戦後レジームを終わらせる
 日中は07年4月、「戦略的互恵関係」の構築で合意したが、現時点ではその中身は乏しいと言わざるをえない。従来と同じで、「わが国が中国に対して一方的に与えるだけの関係」に近い。いい例が「環境問題」である。それが深刻化しているのは中国であり、越境する黄砂や酸性雨、日本海の水質汚染という形で日本は単に迷惑を被っているにすぎない。日中両国は5項目にわたって合意をみたが、実際には2項の「エネルギー、環境、金融、情報通信技術、知的財産権保護等互恵協力を深化させる」という項目以外、具体性に欠け、とりたてて中身がない。「政治面の相互信頼を増進」とか、「共に地域の安定に向け力を尽くす」といった、はっきり言えば抽象的な文言が多く、別に「戦略的互恵」を銘打たなくても通常の国家間で行われていることにすぎない。
 おそらく中国側にしてみれば、実質的利益を得られる2項以外は「オマケ」みたいなものかもしれない。実際、2項を精査すると、「エネルギー・環境・金融・情報通信技術・知的財産権保護」などの面において、日本が中国から教えや恩恵を得るものは皆無と評してよい。むしろ、「情報通信技術」を除いた残る4つは、まさに中国にとっての“危機的要素”ばかりである。よって「戦略的互恵関係」なるものの正体は、中国が日本から貪欲に利益を引き出すための策略に等しいと言わざるをえない。
 これでは本質的には日中関係は何も変わらないだろう。とくに日本国内の空気が、この“新日中友好”に対して完全に冷め切っている。アンケートによると国民の7割もが中国を嫌悪している。なにしろ、72年の国交樹立以降、中国が日本に対して具体的に何か恩恵を与えてくれたことは一度もないので(記憶にあるのはパンダをよこしたことくらいだ)、今では「われわれは日中友好という名の詐欺に騙されていたお人好しだったのではないか」という思いが強くなっている。国家間の関係はギブ・アンド・テイクで成り立つが、中国はギブばかりで日本に対して具体的にテイクをしたことがない。メディアもまた日々「反中」「侮中」を拡大生産している。日本人は年を追うごとに中国とその社会の粗探しをしては嫌悪を募らせている。温家宝首相の来日も、結論から言えば日本人に与えたインパクトはゼロであり、周恩来氏の千分の一の印象もなかった。今では大半の日本人はそんなイベントがあったことすら忘れているし、温氏の顔すらもよく覚えていない。
 つまり、中国がいくら「日中友好・戦略的互恵関係」をうたったところで、利権のあるハイレベルはともかく、一般の日本国民が「何を今さら」と冷め切っているのが現状である。この点が70年代や80年代と大きく異なる点だ。当時は、誰よりも日本の国民自身が日中友好を支持しており、政治サイドもその空気の後押しを受けていた。日本では最終的にこのような一般国民の「空気」こそが物事を決するのであり、中国側にもこの現実を真摯に直視してもらう必要がある。
 一方、中国人民の日本に対する見方も厳しい。政治的な意図によって反日を煽られた面があるとはいえ、8割もが日本を嫌悪しているという。このような対日観の根底にあるものは、やはり過去の戦争である。しかもこれは中国人自身も気づいていないことかもしれないが、日本帝国から侵略を受け、莫大な被害を受けた史実もさることながら、実はその後に「復讐を果たせなかった」という悔しさこそが中国と人民を真に呪縛するものの正体ではないか。彼らとしては、その上、国交樹立時に「戦争賠償の請求を放棄する」という譲歩までしたのだ。おそらく、身を切る想いであったに違いない。しかも、その道徳的英断が日本において正当に評価されているならまだしも、「どうやら日本人はさして恩に感じている様子ではないらしい」と彼らの目には映っている。
 日本人からすれば、過去の戦争に対する反省および中国に対する贖罪行為に関して中国側にも理解不十分な点や悪しき誤解が多い。だが、現実問題として中国人民が心の底に対日不満を鬱積させているのが事実である。しかも危険なことに、ここに幼稚なナショナリズムを肯定した愛国教育や一般市民層の発言力の拡大、そこから醸成される排外・極右的な空気、さらに二桁の軍事力増強といった要素が重なりつつあるのだ。つまり、心理的にも物理的にも中国は大規模な外征に打って出る準備を整えつつあると言えよう。
 復讐を果たせなかったという悔しさは、思いのほか人を長期にわたって呪縛するものらしい。そしてその想いに囚われている中国人民は当然、「日本に対して復讐を遂げるべきだ」と考え、その行為を正当化するだろう。
 以上のように、日中両国民の互いに対する感情はかくも悪化しているのが現状だ。
 そしてこの事態を打開するものこそ「山田案」であり、「戦略的互恵外交」に他ならない。これが実施されれば、相手国の人民に対する直接的な友好メッセージとなり、繰り返すが、互いの人民感情を劇的に好転させる結果をもたらすに違いない。わが国にとっては何よりも中国人民の民心を掴む策略であり、それを通して指導部をも掌握することができる。
 つまり、戦略的互恵外交とは「日中の真の国交正常化」を意味しているのだ。
 とくにわが国は、自国の安全保障のためにも中国人民の対日復讐心を今ここで骨抜きにする手を打っておくべきである。つまり、相手の心理的な武装解除を行うのだ。
 ODA3兆円の債権を放棄するというのは、たしかに大きな政治決断である。だが、それによって得られる国益を見据えれば、大いに実行する価値のある戦略であるはずだ。
 われわれは、「日中共同声明第5項の賠償請求放棄は毛沢東と周恩来が決めたことだから変えるべきではない」などと考えるべきではない。なぜなら、日中国交樹立時の中国内の状況は、独裁者・毛沢東が何でも好き勝手にできる状態にあったからだ。つまり、当時は民意を無視してそれが強行されたと考えるべきであり、事実、今日の中国人民はその時の決断に対して明確に「毛沢東と周恩来の歴史的ミスだ」との審判を下している。われわれは、この現状の民意こそ重視すべきであり、よって中国人が日本に対して憤り、見返りを要求する正当な権利があることを理解し、この際、ケチな発想は慎むべきである。
 さて、ここで改めて「拉致問題」という原点に返ろう。
 今や「拉致敗戦」なる言葉までが使われ始めている。今次「日朝戦争」において、わが国が「拉致された生存者とその家族の全員を救出する」という戦争目的を達成できなければ、たしかに敗戦と言わざるをえない。
 だが、本当に勝負はついたのだろうか。私はそうは思わない。戦争を遂行するに当たって従来は同盟戦略を間違えていたというのが私の考えである。日本はあまりにアメリカの対北圧力に依存しすぎていたが、これが誤りであった。最新の6カ国協議(07年10月)の成果では、「北朝鮮が12月31日までに核施設の無能力化や核開発計画の申告等の非核化2段階措置を完了すれば、アメリカが北朝鮮をテロ支援国リストから削除する」ことが決まり、今年初め頃の米朝交渉が追認された。これは日本の立場からすれば、拉致問題の解決に関して日米同盟が役に立たなかったことを意味する。
 こと拉致問題に関する限り、比重を移すべきは中国との“臨時の同盟関係”である。私はそれを最初の段階から見抜き、主張してきた。
 この「山田案」の存在は、日本政府にとって残された希望であり、幸運である。なぜなら、「北朝鮮による日本人拉致問題」という戦後最大級の国難に対して、「自身のインテリジェンスによって解決した」という事実を歴史に残すことができるのだから。
 しかし、肝心の指導者にそれを見抜く力量がなければ、何の意味もないのも確かだ。
 私自身も歴史の偶然に驚いているが、奇しくも福田康夫氏が新総理に就任した。周知のとおり、父親の福田赳夫氏は1976年12月から2年間、総理を務め、78年には鄧小平氏を日本に招き、日中平和友好条約を締結した人物である。
 つまり、福田新総理が「戦略的互恵外交」の実施を決断すれば、親子二代にわたり日中間の縁を取り持つことになる。それこそ福田氏の歴史的使命なのかもしれない。
 今や福田氏自身は、あらゆる意味で拉致問題を解決しなければならない立場にある。拉致被害者の最初の帰国に際しては、安倍氏との路線対立があったと言われている。総裁選挙中には「私の手で解決したい。私を信頼し、応援してほしい」と明言した。福田氏としては、この約束を果たし、安倍前総理との違いを証明して見せなければならないはずだ。また、これは福田氏個人の問題に留まらず、2年以内に総選挙を迎える自民党の命運にも関わってくる。端的にいえば、拉致問題を解決すれば与党は選挙に勝つ。なぜなら「戦争」における勝利ほど国民を熱狂させるものはないだからだ。
 幸い、拉致問題解決の鍵を握る中国が対日接近を始めた。日中関係に関しては06年9月以降、プラスの政治資産が重なりつつあり、これを活用することでわれわれは拉致問題解決の突破口を切り開くことができる。それを成し遂げるのが「戦略的互恵外交」だ。
 小泉純一郎総理の時代、日中両国は「負のボール」を互いに投げあった。だが、今度はそれとは正反対に「正のボール」を投げあい、ともに勝利者となるべきである。
 その結果として得られる成果こそ、真の意味での「戦後レジームからの脱却」であろう。

(了)

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。