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4・従来の対北戦術は錯誤に依拠しているのではないか 日本向け2部(4/20) [北朝鮮による日本人拉致問題の解決策]

4・従来の対北戦術は錯誤に依拠しているのではないか
 さて、以下からは、山田案と比較する意味でも、従来の解決策や対北方針、またその根底にある考え方がどのようなものであり、またどのような成果をもたらしてきたかを詳細に検証していきたい。
 金正日政権は終身制であるため、国内に対して責任がなく、政治的な得点を挙げなければならないというプレッシャーもない。しかも専制者個人の意志で動く専制国家のため、国内は常に一枚岩であり、対外方針にもブレがない。つまり、より長期の観点から一貫した対日戦略を取り続けることが可能である。一方、世論の動向、選挙、内閣支持率、党内外の異論といった要素に常に振り回されているわが方は、彼らほど腰を落ち着けて事に当たることもできなければ、一枚岩にもなれない。
 よって日朝外交戦は、初めから北朝鮮のほうが有利な条件にある。金正日が常に自らが譲歩しなくてよい戦術、すなわち「日朝交渉に対北融和派の政治家が復帰するのを待つ」という策にプライオリティを置くのも当然といえよう。事実、02年の「9・17」以降、北朝鮮は「あくまで日本側が妥協してくるのをじっくりと待ち、日本国内の政治的意志がその方向へむかうよう内外から影響力を行使する」という対日方針で一貫している。
 むろん、体制が崩壊するほど経済的に追い詰められていれば話は別だが、現状はまだその水準に至っていないと見なすのが妥当だ。われわれがいつも見誤ってきたのは、実はこの点ではないか。われわれは常に「北朝鮮は経済的に苦しいため、咽から手が出るほど日本の経済支援が欲しいはずだ」と予想し、「拉致問題などの諸懸案を解決すれば国交正常化して莫大な経済援助をしようではないか」と粘り強く訴え続けることが有効な解決策であると信じてきた。つまり、結局は相手が折れるはずだ、という目算だ。
 だが、このような一貫した日本の主張に対して、北朝鮮の反応もまた驚くほど一貫している。すなわち「拉致問題は解決済みであり、何が何でも過去の清算を早くしろ」である。ここまで両者の主張が平行線をたどる現実を見ると、従来の北朝鮮観に何か根本的な錯誤があると考えたほうが理にかなっている。つまり、われわれは自分たちの希望的観測や願望を無意識のうちに投影させた「脳内北朝鮮」という虚像と向き合ってきたのではないだろうか。現実に存在する北朝鮮は、われわれが想像するほど困窮してもいなければ、追い詰められてもいない可能性を考えるべきだ。
 日本人がしばしば犯しがちな過ちは、自分の常識をそのまま相手に当てはめることである。不作や水害で民衆の生活が困窮して大変だ、かわいそうだと同情し、これはきっと体制を揺るがすに違いないと思うのは日本人の感覚であって、彼らの感覚ではない。そもそも金正日政権にとって体制の支持基盤である軍将校などの一部特権階級の生活さえ守られればよいのであって、一般国民などはいくら餓死しても構わないのではないか。
 実際、北朝鮮には「わが国は日本の経済支援がなくともやっていける」という確信があるのではないだろうか。また、激しい口調の日本非難とは裏腹に、本音では「日本の経済制裁はたいして効いてない」とタカをくくっている可能性も考えてみるべきだ。私がそう思うのは以下のような根拠があるからだ。
 詳細は後述するが、わが国の対北経済制裁は軍事学でいう一種の“累積戦略”である。累積戦略とは、端的にいえば北朝鮮の経済的困窮がある一定の限界を超えると体制変革や崩壊に繋がっていくとの予想に基づいて遂行される地道な経済攻勢の積み重ねである。これが実に穴だらけとしか思えないのだ。日本がいくら経済制裁を実行したところで、韓国と中国が北朝鮮と普通に貿易を行っており、しかも中朝国境の物流は年々拡大さえしている。また、金正日政権をダイレクトに支え続けてきたのが日本国内で日々莫大な日銭を稼ぐパチンコ資金であることは有名だが、ある種のタブーのせいで、政府当局はこの根幹にメスを入れることができない。それにアメリカの対北戦略の転換が重なり、北朝鮮は今後、表面上の非核化作業と引き換えに体制保障とエネルギー支援などをえる。この国際合意はまた韓国のノ・ムヒョン政権が北朝鮮の体制を支え続けるための絶好の口実ともなっている。北朝鮮を「篭城する誘拐犯」に例えれば、せっせと差し入れしている身内のようなものではないか。この先、米朝の国交が正常化すれば両国間の経済交流すら始まることが予想され、ウラン資源などをめぐる投資も活発化するだろう。
 以上の点から、わが国の対北経済制裁はわれわれが信じたがるほどの効果はないし、よって「経済的に困窮した北朝鮮のほうから歩み寄ってくるのを待つ」という過去一貫した対北戦術の有効性にも疑問を持たざるをえないのである。
 残念ながら、これまでわが国は「脳内北朝鮮」という虚像とシャドウ・ボクシングをしてきたのではないか。相手の弱点を間違えてきたという苦い現実を受け入れる時がきたようだ。戦う相手に対する固定観念や先入観は有害でしかなく、われわれに不可欠なことはまず一切の情緒や精神主義を排し、ひたすら冷酷な機械の眼で相手を中立かつ客観的に観察するという社会科学的な姿勢である。このようにして集めたニュートラルな情報や分析から真に相手の弱点も浮かび上がり、そこを突くことで戦いにも勝つことができる。むろん、そう言う私なりに、その弱点を以下に詳述していくつもりだ。
 歴史の潮流として北朝鮮の体制崩壊はいつか必ず起こるに違いない。十数年後にはこの国家が消滅していることは確かだ。これは予定調和であり、避けようがない時間の問題である。ゆえに北朝鮮のレジーム・チェンジに伴い、拉致問題もいつかは自動的に解決するという見方も大変誘惑的だ。だが、問題はそれがいつ起こるか分からない点にある。来年かもしれないし、5年後かもしれない。今分かっているのは、当面のカンフル剤をえたその体制がしばらく延命するらしいという苦い現実である。

「日中関係を利用して日本人拉致問題を解決する方法」2007年10月作成・配布
【文書の構成】
・日本向け1部(1~10/10)
・日本向け2部(1~20/20)
・中国向け1部(1~10/10)
・中国向け2部(1~15/15)

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